2011.11.26 Saturday
商社 42★
ミュンヘンに出発する前の晩、部長と俺は成田空港を望むホテルに泊まった。
転勤前の夜くらい、一緒に過ごしたかった。
高層階で、エアポートビューの部屋だ。
クィーンサイズのダブルベッドに、英国風ソファとテーブルが置かれている。
背伸びして俺が予約した部屋だ。
俺はテーブルの上に、用意して来た包みを部長に差し出す。
「受け取って下さい。」
「何だね、これは?」
「開けてみて。」
部長が、包みを静かに開く。
「腕時計?しかもふたつ。」先日俺は、これを銀座で買い求めた。
預金しておいた、夏のボーナスで買った。
「結婚して下さい。僕と。」
「養子の件なら・・・。」
「良いんです。僕たちふたりが結婚したと思っていれば。」
このまま、日本とヨーロッパに離れ離れになるのはどうしてもいやだった。
「いいのか、それで?」
「はい。」
部長が、時計を見ている。
時計はもちろんお揃いで、文字盤が濃紺、裏にはKtoS、 StoKと刻まれている。
Kは俺の浩平で、Sは部長の名前、清一郎だ。
結婚指輪していたら、会社で同僚とかに聞かれるが、時計ならいいだろう。
「浩平・・・ありがとう。」
「結婚して下さいますか?」
「ああ。」
「誓いの腕時計をはめて下さい。」
俺は、自分の左腕を差し出した。
カチッと、はまる音がする。
今度は、俺が部長にはめる。
部長の左腕には、既に別の時計がはまっていた。革ベルトの時計だ。
それに並べてもうひとつ、はめた。
「指輪の代わりかい?」
そう言い、彼は照れたように微笑んだ。
英国風ソファに足を組み、ベージュの袖口に二つ時計が意味ありげで、
秋冬物のダークスーツ、青いネクタイ、彼はモード雑誌のモデルのようだ。
「日本時間を知るために、丁度いいよ。」
「僕の時計を、日本時間にして下さい。」
「分かった。浩平と同じ時間を刻むよ。」
そう言うと、部長は既にはまっていた方の革ベルトの時計をドイツ時間に、8時間
遅らせた。
「これを見て、浩平を思い出す。」
澄んだ瞳で見つめられると、クラクラする。
「はい。」
その夜、俺たちは存分に愛し合った。
互いに、贈った時計だけ身につけて。
「部長・・・、清一郎、せい・・・」
幾度も抱き合い、唇を深く重ねながら、俺は部長の名前を読んだ。
互いに触れあい愛撫するうちに、部長が俺のそれを手に取り、ごく自然に口に
含んでくれた。
暖かく柔らかい口内に俺はじわじわとした喜びを覚える。
部長から積極的にそうしてくれたことで、なおさらに熱くなる。
「今度は、部長を濡らすから。」
「うっうん・・・。」
部長がためらうような返事をする。
クッションを腰の下に挟み、足を開かれるのをいつも抵抗するのだ。
ベットのヘッドボードにある照明のスイッチをさぐり、onにする。
鏡の前にある、スタンドが明るくなった。足の方向だ。
「ごめん、部長」
寝具をまくり膝の裏を掴んでぐいと頭の方に折り曲げ、左右に押し開いた。
「あっ・・・。」
部長のその部分が良く見えた。
前に触れ、さらに下のくぼみの襞を指先でそっと押し開くと、ほのかな中が
見えた。
「よせよ、浩平。」
俺が見入っているのに気付き、部長が身をよじろうとする。
「もう少し見せて・・・。」
部長は、大人しくなった。
俺はそこにキスする。
手を外し前を擦る。上下に裏も、細身の物をなでる。
口に含み、後ろの襞を指でこじ開け中に舌を差し込む。
「ああっ!」
前も後ろも愛されて、部長が声を上げる。
濡れた入り口から、手のひらを上に指を2本差し込み、部長のいい所を
探り当てる。
「あっああっ!」
そこに触れると、体を魚のように跳ねさせた。
しばらく愛撫した後、静かに抜き取り、エキサイトした俺のものを濡れた入り口に
押し当てる。
くぼみに吸い込まれる時、昇天しそうな気分になる。
ぐぐっと太い部分が挿入された時、その締りのよさにくらくらした。
「ああっー!!」
一気に押し入り、しばらく動かない。
「あっ」
動き出した俺に部長が声を上げる。
何度も、押し引きし、ベッドが軋む。
俺の動きの激しさに、部長が上に逃げようとする。
肩をつかまえて、ぐっっ!と深く入れる。
「ひっっ!」
これ以上入らない所まで、入れ、
最後に大きくグラインドし、同時に行った。
部長をきつく抱きしめ、ありったけの愛情を注いだ。
俺は、この人が好きだ。
どうにもしようがないほど、好きだ。
強い意思を持ち、常に敵に挑み、獲物を勝ち取っていく、運命をも自分に
引き寄せる強さに惹かれる。
俺をひとり置いて、ヨーロッパに行こうとしても好きなんだ。
部長・・・、部長・・・、
商社にいる以上、俺もじきに転勤になるだろう。
人生のうちいったい何割、俺はこの人と過ごせるんだろう?
そう考えると、言い知れぬ将来への不安が襲ってくる。
法律上の婚姻でもないし、子供がいるわけでもない。
信じているが、信じていいのか、永遠に。
仕事が忙しくてすれ違い、離婚なんて、いくらでもある話じゃないか。
いやだ、いやだ、部長と離れたくない。
彼にしがみつきながら、俺は叫びたいような気持ちがした。
「浩平、浩平・・・、
私も君を愛している。地球上のどこにいても。
今度帰国したら、両親に、私の配偶者として会ってくれ。」
雪深い越後湯沢で旅館を営む部長の両親を、俺は思い出した。
俺は、声を上げて泣いた。強く彼にしがみついた。
高層階のホテルの窓は、白み始めている。
夜明けのまだ青い空気の中、部長がベットから起きる。
俺は黙って、シャツを羽織る姿を見ていた。
ネクタイを締める、愛しい背中をじっと見た。
俺から離れ、この部屋のドアを開ければ、彼はもう上岡商事の入江部長だ。
俺との関係を知る人はいない。
髪を整え、スーツを着ると、リモアのシルバースーツケースをカチッと閉めた。
部長が、俺の方を振り返る。
とっさに目を閉じる。
静かにベッドが軋み、かすかなコロンが漂った。唇にそっと唇が重なった。
部長!!
心の中で叫んだが、俺は寝たふりをやめなかった。
もう一度抱きしめてしまえば、もう行かせたくなくなる。
いやそれでも、行かないでくれと抱き留めたい。
俺の葛藤をよそに、部長は1度だけの軽いキスで、静かにトランクを引き、ドアを
出て行った。
オートロックが静かに閉まるのを、聞いていた。
部長が、行ってしまった・・・。
俺は、憂鬱な気持ちになった。
俺たちの前途は、けっして明るいものではない。
部長が、両親に俺を配偶者だと紹介して、すんなり祝ってもらえる可能性は
ゼロに近い。
それでも、部長とがいい。
彼が、俺を選んでくれる限り。
何があっても、心は離れない。
傷付かない楽な生き方より、傷付いても欲しいものを手に入れたい。
そして、手に入れた。
この絆を、決して離すまい。
結婚指輪の代わりの、腕時計をもう一方の手で握り締めた。
休日の自由過ぎる時間の中、俺はひとり自ら運転する4WDで空港の
ホテルを立ち去った。
離陸する、ジェット音が、遠くこだましていた。
おわり
お読み下さった皆さま、感謝申し上げます。
3.11後、私どもの現実世界が忙しくなりました。
本業のビジネスはもちろんのこと、エネルギー問題、政治に積極的に参加して行く所存です。
現代を生きる私どもの身辺を記し続けたいのですが、いったん閉めたいと存じます。
落ち着いてお話出来るようになったら、商社でまたお会いしましょう。
EU第3部 入江清一郎、松田浩平
❤2019年7月5日 04:13 05:49 07:21 14:25 14:32 14:46 15:18 16:41 16:49にたくさんの拍手コメントして下さった方様、心より感謝申し上げます。
このお返事に目を止めてくださったら幸いです。「出来る男たち魅力的、続きが楽しみ、夜の贈り物、前田父素敵、」などのありがたいコメント沢山賜り大変うれしいです。入江も松田も喜んでおります。
入江は、転勤してしまいましたが、続編のご要望もいただいております。今の所は、新作品『ロミオとジュリエット』を連載中です。『商社』の次は『ロミジュリ』でお待ちしておりますよ〜。