大人のためのBL物語 2023-02-03T03:22:40+09:00 BL好き、女性18才以上の方のみお楽しみいただけるサイトです。
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(c) 2018 fugo
JUGEM ロミオとジュリエット 71★ 最終回 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=139 2021-11-15T10:12:00+09:00 2022-08-30T05:53:30Z 2021-11-15T01:12:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私はスピード違反の罰金支払い証明を添付して、再度帰化申請書を提出した。
結からは、戸籍謄本が送られて来た。結が、日本にいら... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私はスピード違反の罰金支払い証明を添付して、再度帰化申請書を提出した。
結からは、戸籍謄本が送られて来た。結が、日本にいらっしゃるご両親に頼んで送っていただいたものだ。
それを私がドイツ語訳する。婚姻届けに必要な書類だ。
数週間後、国籍取得許可の正式通知が私に送られて来た。
スピード違反罰金支払い証明書も、無事受理されたようだ。
誓約と忠誠の宣言、および憲法への忠誠とあらゆる過激主義を拒絶する、に関し署名すれば、私は日本国籍を離れ、ドイツ国籍になる。
独り居間で、署名する時、ふいに涙が出た。
日本国籍を離れる。
日本人でなくなる…。
ブラオミュンヘンの選手や職員たちは私を今まで以上に、仲間だと認めてくれるだろう。
でも、これまで持っていた心のよりどころを失う、激しい寂しさが私を襲った。
陽が弱くなり、冬が近い部屋で、私はペンで名前をしたためた。
Satoru Togo
「旦那様、コーヒーを入れましょうか?旦那様のお好きなダークチェリーのケーキを買って参りました。」
いつの間にか、買い物に行っていたはずのジップが帰って来ていた。
「お願いするよ。」
「はい。」
「ジップ、私は帰化することにした。ドイツ国籍になる。」
「そうですか。」
「驚かない?」
「ええ。私は、国籍にこだわりはないです。私もタイ国籍でドイツに住んでいますが、地球市民みたいな考えです。」
「地球市民?それはいいね。」ジップの意外な反応に、私は感心した。
「旦那様、私が初めてお会いした時を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、もちろんだよ。」
私は、ジップと市役所の住民登録課で初めて会った。
10年近く前のことだ。
片言のドイツ語を話す、アジア系の女性が、市役所の窓口で職員ともめていた。
「2か月を超えて、住民登録がなければ、私は語学学校の勉学を断ち切られてしまいます。語学コースを修了しなければ職にもありつけません。国に帰らねばならなくなります。」
「とにかく、君に住民登録カードは出せない。不法就労を否定する根拠がない。」
「タイのパスポートも、住民登録カード書類も記入してきました。不法就労ではありません。」
「そう言って、学生と偽って入国して来て行方不明になり、不法就労する奴が後を絶たないんだよ、さあ帰った、帰った!
帰らなきゃ、強制送還になるぞ。」
市役所職員は、彼女が提出した申請書とパスポートを突き返した。
それらが、勢い余って市役所の冷たい石の床にぶちまけられた。
「学生さんが、困っているじゃありませんか。」私は、彼女の大事な書類を拾った。
「おお、これは、東郷監督。不法労働者の典型的な手口なんです。」
職員は調べもせず、彼女を頭から違法だと決めつけている。ハラスメント以外何ものでもない。
「監督、あなたはこの街の名誉市民だが、これはこの方と我々行政の問題です。干渉はご遠慮いただきたい。」
「ジップは不法労働者ではありません。私の家のハウスキーパーです。」
住民登録カード書類の冒頭に書いてあった名前を、申し訳ないがとっさに読ませてもらった。
「え、そうなんですか?監督。」
「そうです。今日からですが。」
ジップがあんぐりとした顔で私を見ていた。
それ以来、彼女は私の家のお手伝いになった。
「ジップ、私はドイツ国籍になり、結と結婚するよ。」
「そうですか…。おめでとうございます。良かったですね、監督。」
国籍離脱と言うことで、国民名誉杯は返上した。
おそらく日本政府とメディア、ワイドショーは大騒ぎだろう。
そして、私に電話がかかって来た。
「在独領事館2等書記官の五代です。」
私の携帯からは、固い声が響いている。
「監督、日本国籍を離れるのは本当ですか?」
「本当です。」
「それほどまでに、あの方が大事ですか?」
結のことを言っている。
「大事です。かけがえがないほどに」
「道ノ瀬さんは、幸せな方ですね。」
「私が幸せなのです。結のような人物に会えて。」
「すべてを投げ捨ててでも、添い遂げたいと言うことでしょうか。」
「そうです。」
五代は押し黙った。
「五代さん、あなたとも一時期、御縁があったのに申し訳ないことをしました。ひらにお許しいただきたい。」
「いいえ、良いのです。私はすべてを投げ捨てる勇気はありません。監督、あなたも、政府の側に立っていればこれからもあらゆる望みが叶ったはず。勝負の世界に生きるあなたならもっと野心的に生きたいと思われないのですか。」
「あなたにも、新たな御縁があることを切に願っております。」
「監督…。」
五代とはそれきり電話を切った。
五代は、骨の髄まで官僚なのだ。官僚組織の中に生きている。
愛だの恋だの言う前に、トップが黒と言っているモノを白とは言えない。
私はパリの宝石店に電話をした。
結との結婚指輪を作った店だ。
結の指輪を同じデザインで作り直してもらうためだ。
このデザインは結が好んで選んだので変えたくない。
私の指輪もクリーニングに出すことにした。
結と相談して、婚姻届けを出す日にちを決めた。
「結は、いつこっちに来れる?」
「11月18日かな。前日までパリで公演があるから。」
「では、11月18日夕方に婚姻届けを出そう。市役所に提出時間を予約しておくよ。」ドイツでは予約して提出するのだ。
「うわっ―ドキドキする。」結が電話の向こうで言った。
「パリまで迎えに行くよ。」
「わーい!でも、東郷さん今回は早く会いたいから飛行機で行く。迎えに来るのはフランクフルト空港にして。」
「そうか、わかった。航空券を買うから、オンラインで確認して。」
「ありがとう!」
結を迎えに行く11月18日の前夜には、試合があった。
よりによって、相手チームの選手とうちの選手が試合中衝突するアクシデントが起きた。相手チームの選手に怪我人が出たことで、選手同士胸倉を掴むひと悶着あった。
朝方ブラオミュンヘン事務所に電話がかかって来て、相手方の監督と選手代理人、ブラオミュンヘンの監督である私と弁護士を立ち会わせて、昨日のアクシデント検証と言うことになってしまった。
結になんて言おう。
結は、もうパリの空港に向かっているはずだ。
携帯に電話をかけたが、つながらない。
もう搭乗ゲートをくぐったのかもしれない。
結は、午前中のうちにフランクフルト空港についてしまう。
私ももう出発しないと結を出迎えられない。
車で私は、昨夜ブラオミュンヘンの試合のあったスタジアムに向かわねばならない。
その時、庭に一台の小型トラックがあるのが見えた。
実は、あれもうちの車だ。
庭師のパウルが使っている。
「パウル!」
私は2階の窓を開けて、庭にいるパウルに呼びかけた。
そのまま、階段を駆け下りて行って、パウルの元に行った。
「申し訳ないが、今から、フランクフルト空港に行ってくれないか。私のパートナーの結が来ている。うちへ連れて来て欲しい。」
「ええ?この車で?」
パウルは、雑木を積んだ泥汚れた車を見た。
「ちょっとまずいか…。じゃあ、私のベンツに乗って行ってくれ。」ジップが乗っている車もあるが、ジップは朝市に出かけていて、今ない。
「はあ…。でも監督はどうされるのです?」
「私が、このトラックに乗って行く。」
怒り心頭の相手チーム監督の前に、泥のついたトラックで乗り付けた私は、失笑の対象となった。 いや、そんなことはどうでもいい。
ブラオミュンヘンの優秀な弁護士が、大事にせず収めてくれてほっとした。
やれやれと家に戻ると、結がパリから引っ越して来た。
結は、パウルが運転する車が止まると、助手席からパッと飛び降りて来た。
「東郷さん!」
「結!」
結が飛びついて来た。
白いセーターにぶかぶかのオーバーオールを着ていてなんだか可愛い。
裾を折って、足首を出して白いスニーカーを履いている。
結は、パリからフランクフルトまで荷物と共に飛行機でやって来た。
フライト時間はわずか1時間半だが、フランクフルトからうちまで車で3時間弱かかる。
結の荷物、中型トランク2つを車のトランクから降ろしてやる。
「今日からは、ここが僕の家…。」
そう言って、結は私の胴にしがみついた。
結は、パリバレエ団所属ダンサーである。公演中とリハーサル時はパリに住むので、パリのアパルトマンにまた帰る。だから、部屋もそのまま保持している。
しかし、その他は私のドイツの住まいで一緒に暮らすことになったのだ。
さて、私たちはこれから市役所に行って婚姻届けを出さねばならない。
「その格好で行くのか?」結は、オーバーオールのまま私のベンツに乗り込もうとしている。
「だめなの?」
「いや、いい。似合っているよ。」
中学生みたいじゃないかと思ったが、まあいいか。
戸籍謄本には、1995年生まれの結の生年月日が書かれている。結は中学生ではない。
26歳の青年だ。年が明ければ27歳だ。
ただ、有名バレエダンサーなのでもっとしゃれ込むのかと思ったが、結は案外素朴だ。
私たちは市役所に向かった。
運転しながら、助手席の結の手を握り話かけた。
「ドイツでは、市役所で婚姻届けを出したら短い”誓いの言葉”を言うんだ。それを私が言うから、結は”誓います。”と言ってくれるかい?」
「いいよ。まかせといて!」自信満々な結がはオーバーオールの胸をポンと叩いた。
石造りの尖ったゴシック建築の市役所が見えてきた。
車を停め、中に入る。
婚姻届けの窓口には既に3組が並んでいて、私たちも並んで順番を待った。
並んでいたカップル3組が私たちに気付き、驚いていた。
「あとで、ご一緒にお写真を撮ってもよろしいですか。」
すぐ前にいた、ジーパンの花嫁が私たちに言った。
「どうぞ。」私は答えた。
結が、私を見上げ、次に前のカップルに向かって微笑んだ。
私たちの順番が来て、私が訳した結の戸籍謄本や、私の出生証明書、ふたりのパスポートなどを提出した。
「では誓いの言葉を。」市役所の職員が言った。教会ではないので人前式なのだ。
私は、あらかじめ用意しておいた誓いの言葉をドイツ語で言った。結が不可解な顔をした。
「なんて言ったの?」結が言った。
「結は、誓いますって言って。フランス語でも英語でも日本語でも良いよ。」
「…誓います。」結が不審げに日本語で言った。
私がジャケットの内ポケットから指輪の入った箱を取り出した。
私が開けると、結が目を見開いた。
「ごめん、東郷さん、作り直してくれたの?僕は指輪をセーヌ川に…。」
シーッと、私は指を唇に当てた。
私は、結の薬指に新しく出来た指輪をはめた。
結も、指輪を取って私にはめてくれた。
その手で、婚姻証明書にサインをした。
私たちは正式に結婚した。
カップル3組と私たちは、立ち上がったフロアの市役所職員たちに盛大に拍手を贈られた。
結は舞台で、私は試合で拍手されることには慣れている。
しかし、今日の拍手は格別だった。
結も頬が紅潮しているのが分かる。
その夜は、ジップもパウルも帰った後に、結とふたりだけで夕食を取った。
ジップが朝市で買いそろえてくれた食材で、ひれステーキと、サラダ、スープを作った。パンは町のパン屋の雑穀パンだ。赤ワインと結の好きなオレンジジュースで乾杯した。ジップが選んでくれた肉は上質だったが、いつもと変わりない食卓。
ひれステーキを3匹の猫が狙っている。
結は、最近は公演で観客を100%入れられることや、パリの紅葉がもう終わりに近づいていることなど、日常を闊達に話してくれた。
私は、それを嬉しくて聞いていた。
結婚式会場は市役所な上、パンデミック禍で披露宴もない。
私は、小さなウェディングケーキを注文しておいた。
結の好きな苺のケーキだ。
ドイツの苺栽培はほとんど露地ものなので、今の時期はない。この苺はスペイン産だ。
結の手を取って、ふたりで小さなナイフを入れた。
「末永くよろしく、結…。」
「信じられない、本当に…結婚したんだね、僕たち…。」結はそう言って微笑み、涙ぐんだ。
結と出逢った3年前のパーティー夜から、愛し合っても引き裂かれて来たこれまでが脳裏に駆け巡っていた。
もう、結とは結ばれない、そう覚悟したこともあった。
その度、結が若い情熱と行動力で超えられないと思った壁を乗り越えて来た。
結は、私にとってかけがえがないのだ。
結とベッドに入るのは、これまでも何度もあったが、今夜は特別な気がする。
私たちは、晴れて夫夫(ふうふ)になるのだ。
何度も交わす口づけは、神聖な感じさえした。
結の白い肌をさすると、結も私に触れて来る。
結の長い手足が私にからみついて来る。
結の全身を愛し、キスした後、脚を広げた。前に触れ、細身のものを愛していくうちに結の呼吸が早くなる。
もう一方の手で、後ろを探る。
「いやっ」
傷つけてはいけないし、入口を確認しながら襞を開きながらゆっくりと中に指を入れた。
「あ…ああっ」
入り口から4〜5cmほど入った所に、栗の実くらいの形がある。前への刺激と共に、それを優しくトントンと触れると、結が、ひっ!と声を上げた。
辛いのではない。
刺激が強すぎるのだろう。
すこし膨らんで来た。結の様子を見ながら、もう少し奥に指を入れると、眉間にしわを寄せて小さくうめいた。 いったん抜いて、手のひらを上にしてより奥の方に指を入れる、結は身じろいだ。
根気よく中を愛してやると、結はシーツをぎゅっと掴んだ。
気持ちいいところに当たったり、私が撫でるような触れ方に変えると、結はびくっと体を痙攣させた。
「綺麗だよ、結…。」
白い肌を紅潮させる結を見つつ、本心を口にした。
結を仰向けにしたまま、脚をさらに大きく開き私の腰に巻きつかせた。
ダンサーらしい筋肉に覆われているが、結は体が驚くほど柔らかい。
結の入口を指で広げ、私はゆっくりと襞口に挿入した。それだけでもうとろけそうになる。
「あっううああっ!」
中の壁に当たるまで挿入し、小さく突き、更に奥が開くのを待つ。
「ちょっと苦しい。」
圧倒的な質量に結が、声をあげた。
「大丈夫、少し待つから…。息を吐いて、そう力を抜いて…。」
そう言うと、緊張していた結の中が次第に柔らかくなって来る。
「いいかい、結、動くよ。」
「ああんっ!」
突き動かし始めると、結が上に逃げようとする。
肩を掴んで、ググっと差し込む。
「いやっいやっああああああ!」
結の中がぎゅーっと熱くなった。
締まる感覚が増した。
そのあとに、結の入り口部分が私の鼓動のようなドクドクとしたリズムに呼応して収縮をした。
何回、繰り返しただろうか。
一瞬のようで、永遠のような気もする。
結の上に、私はバタリと崩れ落ちた。
結も、頂点を迎えたのだろう。前の様子だけでなく、私を包みこむ後ろの入り口が収縮している。
結は、朦朧としている。
自分の意思が飛んだ状態でも、体の外も中も振るわせて答えてくれた。
結の隣りでベッドに横たわり、私は結を抱き寄せ肩口に頭を載せさせた。
しばらく、髪を撫でていた。
このまま眠るのかと思っていた結が、言った。
「ねえ、東郷さん…。」
「ん?」
「市役所で言った…、ドイツ語なんて言っていたの?何だかわからないのに、誓いますって言っちゃったけれど…。」
「こう言ったんだ。」私は結の髪を再び撫でて一呼吸おいて、言った。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
私たちは誓います。
本日、ここにいらっしゃる皆様の前でうそ偽りのない結婚の誓いを述べます。
これからは私たちは、力をあわせて苦難を乗り越え、喜びを分かち合います。
病めるときも健やかなる時も、命のある限り真心を尽くします。
死がふたりを分かつまで…。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
『ロミオとジュリエット』END
お読みくださる皆さま、東郷と結を応援していただきありがとうございました。
仕事が忙しかったとは言え、フーゴの遅筆にお付き合いくださり本当に感謝です。寒い季節を迎えますので皆さまご自愛ください。
2022/08/29 19:55の拍手様 >完結おめでとう御座います。ありがとうございます。お読みくださり深く感謝申し上げます。長く書いたせいか、東郷と結は今日も実際に暮らしているような気になっております。ケンカしていないと良いのですが。www
11月17日22:32の龍樹43さま ようこそお越しくださいました。「もっと送る」沢山押してくださってありがとうございます〜。絵が沢山入っているので、ご想像の助けになるかと存じます。お楽しみくださいね。
11月14日23:01の拍手様 すきです!のお言葉ありがとうございます。作者フーゴも嬉しいです!
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 70 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=138 2021-09-17T13:53:00+09:00 2021-11-15T07:26:10Z 2021-09-17T04:53:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私は、2021年9月ドイツ政府に帰化を申請した。
帰化条件は、5つ。
1、ドイツ在住歴8年以上。2、ドイツ語の言語力。3、一定の経... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私は、2021年9月ドイツ政府に帰化を申請した。
帰化条件は、5つ。
1、ドイツ在住歴8年以上。2、ドイツ語の言語力。3、一定の経済力。4、民主制度尊重の宣言。5、犯罪歴がないこと。
ブラオミュンヘンに収入証明書を申請し受け取り、政府に提出した。
私は、国籍取得テストを受けなければならない。
私は、州が用意したテスト会場に出向いた。
若者ばかりだったら、気が引けるかとも思ったが、人種も年齢も様々だった。
試験官が、テレビで見慣れた私の顔を見て、少し驚いたようだ。
久々に、試験を受けた。監督の資格を取る時以来だ。
質問は、ドイツの歴史や政治、地理、文化から出た。
33問出て、17問クリアすれば合格である。
年甲斐もなく受けた試験は、30年もドイツにいる私には難なくクリア出来るものだった。
帰化申請書を出し、あとは結果を待つのみとなった。
既にドイツで著名な監督となった私は、帰化を許していただけるだろう。
試験の後、私は、帰化申請中であることを、母と結のどちらに先に告げるか迷った。
日本国籍を失うことなので、日本人に生んでくれた母に先に告げることにした。
「…。そう…。悟が決めたことなら、お母さんは反対しない。」しばらくの沈黙の後、電話の向こうで母はそう言った。
「すみません、お母さん。」
「大丈夫。悟は東郷家の長男と言うより、ブラミュンヘンの東郷でしょ。日本と言う狭い価値観の中に生きるべきではないわ。」
「本当にごめんなさい、お母さん。」
「大丈夫、国籍が違ったって悟は私の息子だから。昔は、あなた私の一部だったのよ。」
私は笑った。
「結さんには話したの?」
「いや、まだ。」
「早くしなさい。お母さんより、結さんが先よ。じゃあ、パンを仕込んでいるからまたね。」
「お母さん…。」
母が電話を早々と切ってしまった。しばらく携帯を握り締めていたが、やはり結に知らせなければならない。
「東郷さん?電話、うれしい。」
弾むような結の声に、車の音が交じって聞こえて来る。
「今、外か?」
「うん、移動中。運転手はフランスの人だから大丈夫。」
日本語だから、恋人と話しても大丈夫と言うことか。
「私は、帰化するよ。ドイツ国籍になる。」
「え?」
「結、君と合法的に結婚できる。」
結は沈黙した後、慎重に言葉を重ねた。
「…本当に?!」
「結!…。結、私たちは本当に結婚しよう。」
結へのプロポーズは、電話でになってしまった。でもパンデミックでまだ移動制限のある中、今度いつ会えるかわからない。
「でも、東郷さん、本当に日本人でなくなってしまっていいの?お母さんや妹さんたちはなんて?」
「それは、大丈夫だ。結は心配しなくていい。」
「僕が、フランス国籍を取るって言う手も…。」
「いや、これは私から君への愛情証明だ。長らく待たせてしまったが、変わりない愛情を持っていると証明したい。」
「嬉しい!東郷さん、僕すごくうれしいよ!」
結が、電話の向こうではしゃいでいる。
運転手がフランス語で、結に何か問いかけている。結が、フランス語で
「僕は嬉しいんだ!」と言ったことだけ聞き取れた。
結のいるパリはもう秋だろう。
結を乗せたシルバーのシトロエンが、秋のパリの街並みを走り抜けるのが目に浮かぶ。
結に会いたい。
今すぐ会いに行きたい。
私の車で、結を迎えに行きたい。
走り出しそうな、10代の頃感じた沸き上がるような想いに、今、私は包まれている。
私は、日本国籍を離脱が決まったら、当然国民名誉杯は返上する。
私を、幾重にも束縛して来た政府とはおさらばだ。
さようなら、日本。
さようなら…。
少なくない、祖国への思慕がこみ上げて来る。
私を生み、育んでくれた母なる国。
母は、パンを仕込んでいるから、と電話を切った。
いつもと同じように働きながら、母も泣くのかもしれない。
今の私と同じように…。
私は、日本国籍を失うことで、全てのしがらみを断ち切ることが出来る。
私の知名度を日本政府が勝手に利用しただけで、広告塔になる契約を交わしたわけではない。
残る問題は、結の方だ。
私の所属するブラオミュンヘン、そして結の所属するパリバレエ団は、パンデミックにより経営悪化を強いられて来た。
パンデミックは、ここ最近、以前にも増して感染力が強い。
しかし、それは弱毒化の証でもあった。
明らかに弱毒化している。
デンマークやスウェーデン、インドではもう普通の暮らしに戻っている。
疫病の歴史を見ても、パンデミックはせいぜい2〜3年で終わる。
そして、すでに世界は、パンデミック後の世界を見据えて動いている。
ブラオミュンヘンも、チケット販売を3カ月後は全席販売が決定した。
結の所属するパリバレエ団も、地続きの隣国なので同様の決定がなされた。
ブラオミュンヘンもパリバレエ団も、中東の石油会社が資本を入れていた。
それを、頼らなくて良くなりそうなのだ。
そうなれば、嫌がる結に、バレエ団はW杯アンバサダーを強要しないだろう。
何と言っても、結はパリバレエ団のスターダンサーだ。
彼の機嫌をこれ以上損ねて、移籍したいとでも言われたら大変だ。
私と結に、本当の意味での自由が来る。
ようやく…。
そろそろ、帰化申請の許可が下りる頃だろう。
私は、相変わらず、試合に出て指揮し、選手の練習を指導し、あとはフライブルグ郊外の静かな屋敷にこもっていた。
結のいるパリも秋なら、私の住む山々に囲まれた小さな集落も、緑から黄金色を帯び、秋が深まって行く。
窓から教会が見える。朝な夕な、教会の鐘の音が聞こえて来る。
なだらかな山間の、この景色が私は好きだ。
自宅の執務室で、私は、パソコンを使い、ブラオミュンヘンの戦略趣味レーションを立てていた。
コンコン、と、ドアがノックされる。
「旦那様、郵便物です。」ジップが封筒の束を持って入って来た。
「ありがとう。」
その中に、市役所からの事務的な封筒を見つけた。
役所からの、帰化申請の許可証だろう。
私は、この国に30年間暮らし、サッカー監督として働き、納税して来た。帰化に必要な民主制度ももちろん重んじている。何も不足はないはずだ。
許可証の封を切った。
1、独在住歴8年以上。○
2、ドイツ語の言語力。○
3、一定の経済力。○
4、民主制度尊重の宣言。○
5、犯罪歴がない 審査中
私は唖然とした。これは、許可証ではない。申請不可の通知ではないか?
しかも、役所が問題にしているのは5の犯罪歴だ。
私は、市役所の帰化申請課に問い合わせた。
「申請番号とお名前をお願いいたします。」
「MGL7823295 Satoru Togoです。」
「帰化申請中ですね、継続しますか?」
「当然です。」
「では、書類、証明書等が不足しています。5の犯罪歴に関してです。」
「犯罪歴?ですか。」私は、一瞬意味が解らなかった。
「そうです。過去5年以内のスピード違反が問題になっています。スピード違反で免停になったことがありますね。」
「ええ。」そうだ、あの時は電車とバスでブラミュンヘンの練習場に通っていた。
「5年以内の交通違反が犯罪歴に含まれます。その時の警察当局の出した書類と罰金支払い証明と免許証をコピーしてお送りいただけますか。」
「わかりました。」
「では、お待ちしております。」
「あの…。」
「はい?」
「罰金支払い証明などを提示すれば、帰化は通りますか?」私は不安になった。
「過度なスピード違反で免停になった場合は、帰化不許可になる可能性が高いです。」
ぶっきらぼうに市役所職員は答えた。
マジか…。
ここまで来て、帰化できないなんて…。
そろそろ現実世界もコロナ収まって来そうです。もう少しです、頑張りましょう。東郷も頑張っています。wwwいつもお越しくださりありがとうございます。
9月17日14:43の葉月さま お世話になっております。希望の光!スピード違反で陰ってしまいましたね。あらら。葉月さまもお元気で御執筆くださいね。作品を楽しみにしております。
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 69 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=137 2021-08-18T16:21:00+09:00 2021-08-18T12:00:30Z 2021-08-18T07:21:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
日々入って来るあまりの惨事に、私は言葉を失った。
ドイツも、結のいるフランスも、そして私の家族の住む日本もパンデミック... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
日々入って来るあまりの惨事に、私は言葉を失った。
ドイツも、結のいるフランスも、そして私の家族の住む日本もパンデミックに覆われている。
何と言うことだ。
そんな中、ドイツではサッカーの今季リーグ戦が始まっている。8月が開始時期だ。
私が所属するブラオミュンヘンは、アウェイのフランクフルトでの試合が今季第1戦となった。
3分の1の観客を入れての開催である。チームメンバーが発病しないよう、私も選手も健康管理にも神経をとがらせた。
監督の私にとっては、初タイトルがかかる試合になる。
最初の一戦を獲れるか否かで、やはりチームの空気は変わる。
極めて重要な試合だ。
ブラオミュンヘンは、ストライカーマルコの立て続けのゴール2つで、前半先勝ムードに覆われた。この気のゆるみが危ない。
そうしているうちに、追いつかれ、引き分けで後半5分を残す所にまで来てしまった。
ディフェンダーのロベルトが、ゴール近くまで上がって来て、頭でゴールに叩き込んだのが、決定打となった。
どうにか、ブラオミュンヘンは開幕戦を白星で発進できた。
パンデミックで行動制限がある中、選手たちのスピード感あふれる攻撃に私は感謝している。
「いい仕事をしてくれたな、ロベルト!」控室に下がる階段で、私は今日のMVPのロベルトに声をかけた。
「どういたしまして、監督!」パンデミック下なので、こぶしとこぶしを触れる挨拶をする。
「国にいる両親も見てくれていると思います。」
「きっと喜んでいるよ。」
ロベルトの家系は複雑だ。彼は現在ドイツ国籍だが、彼の両親はポーランドに住むポーランド人だ。
ドイツ人であったロベルトの祖父が、第二次世界大戦中、兵役に反対して当時ドイツ領だったポーランドで投獄されてそのまま終戦を迎えた。
彼の祖父は、戦後ポーランド女性と結婚し、ロベルトの母が生まれた。
サッカー好きな少年だったロベルトは、サッカー強豪国のドイツでプロ選手になる夢を抱いた。
プロ選手になり、更に優秀な成績を収めれば、ドイツ代表への道が開ける。
そのためには国籍が必要だ。
彼は、そのためにドイツの国籍を取得したのだ。
どこの国も少なからずそうだが、多様な民族、人種が混ざり合い、助け合って生きている。
私も今、そうして生きている。
ここは日本ではないが、みな私を仲間だと認めてくれている。
私は、違う立場の人間、自分と違う生き方を認めたい。そうすることが多くの人を幸せにするし、ブラオミュンヘンをも強くする。
試合から、監督控室に戻った私はいつものようにスマホの電源を入れた。即座にスマホに電話がかかって来た。
日本からだ。懐かしい名前がディスプレイに出た。
「おにいちゃん、元気?」
「恵も?」
「もちろんよ!外出が制限されていて不便だけれど。」日本の神奈川県で母とパン屋をしている恵が言った。
「お母さんや飛鳥、晴斗や智和さんも元気?」晴斗は恵の子で智和さんは恵の夫だ。
「うん、みんな元気。おにいちゃんも元気そうね。時々、試合をネットで見ている。結さんは?結さんとは別れたままなの?」
恵は、単刀直入に聞いて来た。
「それが…、よりを戻した。このまま許されるかどうか分からないが。」
権力がそれを許すかどうかは別問題と言うことだ。
沈黙した私に恵が言った。
「今度、実家を改築するのよ。お兄ちゃんと結さんの部屋をどうしようかって話になって。」
「え?」
結と日本に帰る時は、私の実家か結の実家に滞在した。
ドイツとパリ、日本の実家。更に別の家を持つほどのこともない。そんなに滞在できないし。
私の実家には、私と結の部屋が1つ用意されていたはずだが…。
「今まで泊まっていた部屋、壁紙が古いから綺麗にする?小さいキッチンとかはいる?また帰って来た時、ふたりでご飯とか食べたいんじゃない?」
「いや、その…。」結とはよりを戻したとは言えこの先どうなるかわからない。正直、そんなことまで考えられないのが実感だ。
「小さいキッチンはいいよ。みんなと一緒で良い。結も多分…。」
その時、監督控室のドアをノックする音が聞こえた。
恵に「また。」と言い電話を切り、ドアを開けた。
「五代さん…。」
「監督にLINEしたのに、お返事がなかったのでこちらに伺いました。」
五代は少し弾んだ声で言った。
サッカー関係者でない五代が、即監督控室に来られるわけがない。
おそらく彼は、領事館勤務で日本政府の関係者の権限を振りかざしたのだろう。
「五代さん、私もあなたに話さなければならないことがあります。」五代を監督控室のソファに促した。
「それは、外交官五代へのお話でしょうか?それとも、私一個人へでしょうか?」
「両方です。」
「伺います。」
「五代さん、私は図らずもあなたと”縁”があったが、やはりこのままではいられない。
私は、道ノ瀬結とよりを戻す。あなたに申し訳ないと思っているが、私と道ノ瀬結は権力によって無理やり引き離されたのだ。」
五代は、微動だにしない。ただ、表情が能面のように硬くなった。
「わかりました、監督。私と別れると言うことですね。」
「すまない。そう言うことだ。」
「道ノ瀬氏とよりを戻すのがどんなに危険なことか、覚悟はできていますね?」
「ああ。」
結は、すでに捨て身で私に逢いに来たのだ。
結のしたことをに比べれば、これくらい私がしなければ…。
「私が、東郷監督あなたとお別れするのは致し方ないことかもしれません。」
思った通りだ。五代は愛や恋には流されない。組織と立場をはるかに重んじている。
「あなたは、道ノ瀬氏と別れた後も、心のどこかに彼がいた。それでも、ブラオミュンヘンを不利な立場に追いやると思えば彼をあきらめるかと思いました。でも、違いましたね。」
「五代さん、私と結はあなたたち、立場と組織至上主義の人間とは違うのですよ。心の中まで権力で従わせることはできない。」
「そうですか。」
「東郷監督!あなたは日本への国境をまたげなくなりますよ。
いいのですか?もう、日本でご家族に会えないのですよ、それでもいいのですか!?」
「入国禁止措置を取ると言うのか?」
「そうです。私がどうこうするわけではありません。しかし、政府は権力に逆らったあなたを決して許さないでしょう。日本国籍を持っていても、明確な理由もなしに日本への入国を拒否することが出来ます。
それが国家権力と言うものです。
政府側に立った日本のメディアは、問題にもしないでしょう。
たとえ、あなたの暮らすドイツのメディアがかぎつけて取材を申し込んでも、入管当局は「プライバシーに関することで回答できない」と突っぱねることが出来ます。
監督、よく考えてください。そうはなりたくないでしょう?
監督が、日本のご家族、お母様や妹様と仲が良いのを政府は知っています。」
顔には出さなかったが、内心ギクっとした。
政府は、私たち家族の内情まで知り尽くしている。母や妹たちにまで危害が及ぶのか。
私と結は、次期W杯のいわばアイコンだ。
私が日本国内向けで、結が海外向けである。
次期開催地はタカール。
同性婚は禁止の国だ。
私と結がよりを戻せば、多大な影響が出る。
日本政府は、私への箔漬けのために、国民名誉杯を私に授与した。
私は授与式の記者会見で、ドラマのごとく脚本通りの質問に、あらかじめ用意された答えを読んだ。
すべてが茶番なのだ。
私は利用されているだけだ。
W杯で莫大な商業利益を上げるため、私と結の間を引き裂き、私の父の会社は取引停止に遭った。
父が急死したのはその心労からだ。
実家のパン屋は地検捜査でめちゃくちゃに踏み荒らされた。
試合後の記者会見で、私に用意された水に毒物が混入していた。
私は、1976年に日本の神奈川県で生まれた。
小中学校と地元の学校に通い、高校は親の転勤先のドイツで通った。子供の頃からサッカー選手になりたくて、審査を受けて通りめでたくてプロデビューした。
しかし、19歳の時、背骨骨折の大怪我を負い、選手生命を突然断たれた。
ドイツで大学に通い、トレーニング理論、解剖学、生理学、心理学、栄養学を学んだ。サッカー監督になるためである。
ドイツで名だたる監督になったが、日本人であることを忘れたことはない。
むしろ、外国にいればこそ、日本人であることを意識する。
世界の強豪選手を集めるドイツのプロサッカーチームには、多くの外国人監督がいる。
私は、初めてで唯一の日本人監督だ。
どこに行っても、日本のことを聞かれる。
日本のメディアは、毎日のように、ブラオミュンヘンに取材に来ている。
日本人記者を相手するうちに、選手も日本語を覚えてしまい、ミーティングの間にも片言の日本語が交じることがある。
私は、ドイツに来てから30年も経つが、それでも日本人なのだ。
でも、結に逢い、結とどんなに愛し合っても日本人同士の私たちは結婚すらできない。
そう、日本人同士だから…。
サッカーへの情熱、日本と言う祖国への思慕、そして苦しみ…。
この年になってなお、それらを両立させることが難しい。
同じ土地、社会に生きる大多数の人たちからすれば、私はマイノリティーだ。
マイノリティの私や結を、政府は忌避しながら、その知名度を利用しようとする。
こんな社会にいていいのか。
私に必要なのは、サッカーと結だ。
それこそが私の心のよりどころであり、アイデンティティだ。
うちのチームのロベルトは、ドイツ代表選手の夢をかなえるため、国籍を変えた…。
変えた…。
国籍を…
「監督、どうかされましたか?」
無言のまま、思いを巡らす私を五代は不審に思ったのだろう。
「五代さん、」
「はい?」
「政府が、私を入国させないと言うのなら、私は日本を捨てます。帰化します。」
実世界もコロナでエライことになっています。日々コロナ文献に目を通しているフーゴです。皆さまくれぐれもご健康にご留意ください。いつもお読みくださり感謝しております。
2021年8月18日19:44の夏子さま お読みくださり、コメントいただきありがとうございます。この危機を私たちは必ず乗り越えて参りましょうね。夏子さまのご安全をお祈り申し上げております。
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 68★ http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=136 2021-06-19T09:44:00+09:00 2021-06-24T02:25:19Z 2021-06-19T00:44:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結の足を、私の腰に巻きつけ、結のそこを指で開き、私自身を含ませた。
「あっ、んっんう…。」
「結、力を抜いて…。」
久... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結の足を、私の腰に巻きつけ、結のそこを指で開き、私自身を含ませた。
「あっ、んっんう…。」
「結、力を抜いて…。」
久しぶりで、結に入りにくいかもしれない。
「ああっ!」
時間をかけて入口を貫通させると、結が全身を緊張させた。
「力抜いて。大丈夫だから。」
「う…ん…。」
前に触れ、愛撫しながら、気を逸らせた隙にググっと深く入れた。
「あっ東郷さん、ずるい…。いやっ。」
結の奥に少し当たったので、ノックするようにすると、更に奥が開くはずだ。
結は私を忘れていない…。
「あっああああああああ!」
一気に動くと、結が叫んだ。
「あっあっ、あっ…。」
ゆっくり引いて、もう一度深く入るっ…。
何度か、引いて押して次第にスピードを上げていく。
「ああっ!!!んんっ…!!。」
私は、抑え込んで来た愛情を注ぐ。
脳髄の裏がスパークし、体中の熱が沸騰するような気がした。
結も、全身を硬直させた。つま先が反っている。
私は、結を愛しているのだ。
別れたはずの結と再びこうなって、私は私を育ててくれたブラオミュンヘンを裏切ってしまった。
結もパリバレエ団の意志に背いた。
私は結と、ひとしきり愛し合った後、結の上に崩れ落ちた。
そして、結の隣りに燃え尽きたように仰向けに倒れた。
結の荒い呼吸が聞こえる。
今まではいつも、結の髪を撫でてやり、甘い時を過ごしていたが、今回の逢瀬は罪の重さに押しつぶされそうだ。
気配を感じて目を開けると、結が顔だけこちらを向けて私を見ていた。
結が、苦悩に似た表情を少し浮かべ、私の方に手を伸ばして来た。
私はその手を取り、結を胸に抱き寄せた。
「大丈夫か?」
「うん…。」
「東郷さん…、」
「ん?」
「僕たち…結婚するんだったよね。」
「結…。」
「するって言って!」
そう言ってやれればどんなにいいか。
「言えないんだね!嫌いっ!」
私は結を抱きしめた。
腕の中で結がもがき暴れる。
それでもきつく抱きしめる。
「嫌いっ!嫌いっ!でも好き、離れられない…。」
結はくぐもったような泣き声を漏らした。
私は、翌朝早く車で結をフライブルクの駅に送った。
結はドイツのフランクフルト公演中だ。
私の自宅のあるフライブルクから、フランクフルトまで、ヨーロッパ高速列車で2時間強で行く。
1人席のある一等席を買って、結に渡した。
車でフランクフルトまで送って行ってやりたいが、今日は試合がある。
10時には、選手たちと合流しチームのバスで試合会場まで移動しなけばならない。
結は、キャップ型の黒い帽子を深くかぶり大きなマスクをかけ、面が割れないようにしている。
それでも、フライブルクはベルリンやミュンヘンなどの大都市に比べると東洋人が少なく目立ちそうだ。
それに結は、一目でちょっと目立つ体形をしている。
細くて、しなやかに強いバレエダンサー特有の身体だ。
道ノ瀬結だと分かって、囲まれたりしなければいいが。
「フランクフルトに着いたら、ホテルまでタクシーで戻る。」結は言った。
「みんな、結を探しているんじゃないのか。」
「いや、昨日フランクフルトを発って今朝戻るんだから大丈夫。たぶん。」
「マネージャーさんは探しているだろう?新しいマネージャーさんがいたね。」
「うん、楠本さんは外されちゃったんだ。」
「私のせいだ。」
「東郷さん…。」
結のマネージャーの楠本氏は、結の記憶障害のことを私に話したため更迭された。
そう、五代がはっきり言った。
楠本氏を更迭したのはパリバレエ団だが、その後ろには磯崎首相ら政府がいる。
発車時刻になり、列車は結を乗せて走り出した。
こうして、この駅で結を見送るのは何度目だろう。
結が、見えなくなるまで必死に振り返り私から目を離すまいとする。
結!
私もホームを少し走った。
結!
結…。
行ってしまった。
結が行ってしまった。
ホームを走る私に、気付いた乗客があっと言うような顔をしたが、すぐに目を逸らせた。
この街の人は、私のプライベートを大抵放っておいてくれる。
私はこの乗客に小さく感謝した。
そして、私は五代とのことを清算しなければならなかった。
五代と別れた後に、結と復縁すべきだった。
だが、結は急に訪れた。
五代は、おそらくハニートラップと自分の気持ちとの半々で私に近付いて来たのではないと思う。
五代に清算を願い出ても、彼が、はいそうですかとすんなり受け入れるとも思えない。
五代と別れることは出来ても、五代は必ず結を私から切り離そうとするはずだ。
それが五代の職務だからだ。
私と結には、恩あるブラオミュンヘンやパリバレエ団を裏切った。
愛だ、恋だと言っても、支えてくれる団体や人間なしでは生きていけないことは百も承知だ。
結、なぜ私の前に現れた。
結を愛し、結を苦しめる私は罰を受ける。
これは、天罰か…。
結と復縁したことは誰も認めてくれないだろう。
それでも公言すれば、結も私も社会的に抹殺される。
私たちだけでなく、結のご両親も私の母や妹も…。
私は、結との復縁をどう扱うべきか、試合の前も後も思い悩んだ。
パンデミックによる無観客試合で、観客の歓声がない。
それがまた、私を試合に集中させることを阻害した。
いつもの熱狂的な観衆がいれば、その間だけは忘れられる。
試合は、1-0で敗戦となった。
対戦相手は、スペインの強豪チーム、エルコルドバ。
屈指の好カードである。
私は、貴重な試合でつまづいてしまった。
しかも、ブラオミュンヘンがボール支配率6割を超えた。
シュート数は相手の2倍以上の12本だった。それなのに負けた。
決定的な所でチャンスを逃し、得点に結びつけなかった。
しかも、相手に許した1点はマルコによるオウンゴール。
天を仰ぎたい気持ちだが、指揮官の私がそれをやる事は出来ない。
試合後、マルコに厳しい質問を浴びせる記者たちを制し、私がインタビューを変わった。
「強豪に対し、我々はあきらめず戦った。得点につなげなかったことは残念だが、選手は持てる才能のすべてを使い戦っている。」
今この光景を、結が見ているかもしれない。ふと結の顔がよぎった。
記者たちの怒涛のようなインタビューを、終え私は監督控室戻った。
夏が近く、ジャケットを着ての試合はそろそろ終わりだ。
私はジャケットを脱いで私服に着替えた。
その時、電源を入れたばかりのスマホが鳴った。
LINEだ。結か?
タップして、私は後悔した。
五代だった。
B L ♂ U N I O N
来た来た五代。そう簡単に復縁できない東郷と結です。拍手絵も更新です。著者フーゴはちょいと大きな仕事プロジェクトに加わってしまったので、ロミジュリ執筆遅れがちです。皆さまも体力を万全にし感染対策なさってください。
]]>ロミオとジュリエット 67★ http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=135 2021-04-28T19:26:00+09:00 2021-04-28T10:35:20Z 2021-04-28T10:26:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結の、
「きっとあなたを奪い返すから!」
の声が、胸に突き刺さり、私の体の中で何度も何度もこだました。
「好き!今... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結の、
「きっとあなたを奪い返すから!」
の声が、胸に突き刺さり、私の体の中で何度も何度もこだました。
「好き!今でも!好き!大好き!」
私は既に、ドイツの自宅に戻っていた。
台所で、オレンジの皮をむき、白い綿をスプーンで黙々とこそぎ取っていた。
「旦那様のオレンジピールは美味しいから。」
ジップが、にこやかに笑って白い綿を生ごみバケツに入れていく。
ジップがバケツにたまった生ごみを階下に運んで行く。やがて庭でたい肥になる。
庭では、庭師のパウルが待ち構えているはずだ。
私の屋敷には、休日よくブラオミュンヘンの選手たちがやって来て食事を共にしたり庭でサッカーに興じていた。
しかし、パンデミックで来客は今はいない。
オレンジはドイツでは採れない。
これはイタリアからの輸入品だ。
無農薬オレンジを買い、中身も皮ピールも、ジップとパウル、私で食べる。
猫たちは柑橘の匂いを警戒して、棚の上から高みの見物をしている。
サッカー試合は無観客。帰宅すれば、この静かな暮らしが私を待っている。
結は、私と別れた後、何を思って暮らしていたのだろう。
結は、パンデミック下にありバレエのオンライン演目に出ていた。将来につながる子供の顧客獲得のため、お菓子のおまけ付きチケットを発売し、お菓子の種類を結自ら選んでいたと言う。
私なしでも、通常通り活躍しているように見えた。
でも、私が五代と共にいた所を見て、結は平常心を保てなかったのかもしれない。
空港で結が激高したのを、言葉はわからないにしろ、周囲のドイツ人乗客は驚いて見ていた。
結は、東京でも同行していたパリバレエ団職員らしき人物に「公演がありますからと」連れ去られるように行ってしまった。
結は、ドイツのフランクフルトでゲスト公演すると言っていたが。
結と別れ、結への想いが消えたのかと言えばうそになる。
しかし、バレエを続ける結を守り、私もブラオミュンヘンを守るためにはこれしか選択肢がなかった。
結には10社のスポンサーがいる。世界的バレエダンサー道ノ瀬結を支える貴重な存在だ。
結の活動には、公演運営費、チケット売買、広告宣伝費、莫大な資金源が必要だ。
それをスポンサーが支えてくれている。
私の所属するブラオミュンヘンは、ドイツの強豪チームだが、パンデミックで無観客試合を強いられている。
今やすべての試合が無観客だ。
オンライン放送はしているが、チケット収入が消えた。
ブラオミュンヘン存続の危機である。
ドル箱だったブラオミュンヘンは、外資系油田企業の支援を受けることになった。
そして、五代。五代は空港で結が正気に戻ったことで、珍しくわずかに動揺した。彼は弱みを見せない。
以前戦争に反対し、大使の地位を追われた父のようになるまいとしている。
典雅な微笑みの下に、非情な決意を隠している。
その彼が、時折見せる、心の機微…。
ブラオミュンヘンは私がLGBTであることを公言しないことを望み、日本政府は結がLGBTを隠すことを強要している。
結と別れたまま、もう会うこともないのなら、五代と生きていくのもありかもしれない。
しかし、それは権力に飼いならされると言うことだ。皆そうして生きている?
結をあきらめ、観客の応援もないままそれでも勝たねばならない。この苦しみはいつまで続くのか。
ジップもパウルも夕方4時には帰宅してしまい、旅籠だったこの広い屋敷に私と猫だけになる。
疲れているのにもかかわらず、眠れない夜が続いた。
試合があるから、寝るのも仕事なのだが、1時間ごとに目が覚めることもあった。
その夜も、私はすぐには眠れそうになかったので、珍しく寝室でパソコン動画を見ていた。
動物のドキュメンタリー映像だった。
何組かのオットセイの親子が海で仲良く暮らしている映像が映っていた。
オットセイの親は、少し大きくなった子供を連れて海で泳ぐ。
子供も達者な泳ぎをするようになった。
すると、海面からのどかに顔を出していたオットセイの群れが、急に波立たせてものすごい勢いで逃げ出した。
暗い大きな影が海面下に映っている。サメだ。サメがオットセイを追いかけている。
オットセイたちは、島の陸地に急いで這いあがり、次々と難を逃れる。
その時、親のオットセイに必死について行く子供オットセイがいた。
子供オットセイは、サメに横腹を食われていた。
オットセイの子供は、自分の一部を失いながら命の限り必至について行こうとする。
オットセイの子供には、間もなく死が訪れるのだろう。
それでも、親について行こうとする。何としても親のそばがいいのだ。
このような無残な出来事は、日々起きている。
自然の摂理とは言え、悲惨な映像に私はいたたまれなくなり、ここまで見たことを後悔した。
パソコンを消し、腰かけているソファを立ち上がろうとすると、ポツっと雨が窓に当たる音がした。
春でも、私の屋敷のある場所は標高が高いため、夜は寒い。もしかしたら氷粒かもしれない。
ソファの背にいた猫たちが、耳を立てている。
またポツっ、と音がした。
雨が降り出して来た。明日は雨か。天気予報では雨とは言っていなかったが、山は天気が変わりやすい。
明日、夕方からは試合だ。
ポツッ、今度は今までより大きな音がした。
猫たちがソファの上で、立ち上がった。
「どうした?」私は猫の毛並みを撫でながら彼らに問うた。
私は、猫の視線の先を見た。
視線の先は窓際のカーテンである。
私は、立ち上がり、カーテンを少し開けた。
2重窓の向こうには暗い庭があるだけである。
しかし、雨粒が当たったはずの窓ガラスが雨に濡れていない。
私は不振に思って、ドレーキップ窓(内開き・内倒し窓)を開けた。
「東郷さん!…」
「?!」
私は、窓の下を見た。
私の寝室は3階である。その窓の真下を見た。
夢でも見ているのか。にわかに信じられない光景があった。
窓の真下に、”結”がいた。
「東郷さん!!」
「結…。なぜ君がここに?」
「結、君はここに来てはいけない。」
「でも来てしまった。今日は帰れない。」結は私を見上げて言った。
確かに、今日結がパリに帰るのは不可能だ。しかし、結が私の所に来たことが発覚すればただでは済まない。
「結、君が泊まるホテルを近くに用意する。送迎のタクシーも。」
「いやだ!行かない。東郷さんが入れてくれないなら、ここに朝までいる。」
「ばかな。凍え死ぬぞ。」
「それでもいい!」
「結!…、」
「結、君が著名バレエダンサー道ノ瀬結でなく、私もブラオミュンヘン監督東郷悟でなければ、どんなに良かっただろう。それなら今すぐ、ドアを開けて君を招き入れる。
でも、私たちは、多くの人に支えられて生きている。裏切ってはいけない人たちがいる…。」
「それはわかっている。でも、どうしても東郷さんと一緒がいい。東郷さんが他の人と一緒にいるのはいやだ。」
「だめだ、帰りなさい。」私は選手に時々使う命令口調で言った。
「嫌だ、入れてくれなければ、ここを登る!」暗い中、結は近くの枝を掴んだ。
「だめだ!その木はバラだ。とげがある。」
それでも結は、大きくなったバラを掴み、1階の窓の縁に足を載せ、壁をよじ登ろうとする。
「東郷さんの…、い…る、窓まで…登る!」
結は、息を切らしながら本当に登ろうとしている。窓の縁に足をかけ、1階のひさしを傷ついた手で掴んだ。バレエで鍛えた身体能力で、結は本当に3階まで登って来そうだ。
私は、急いで、階下に降り、玄関を開けた。
「結!」
「東郷さん!」
結が窓から飛び降り、私の方へ駆けて来た。
玄関テラスの縁に足を取られ、倒れそうになった結を私がとっさに抱き留めた。
「結…。」
「ずっとこうしたかった…。」
わずかに血の匂いがする。
結の手のひらはバラのとげで傷ついているに違いない。
その手を私の背に回し、片時も離すまいと抱き、結はおんおん泣いた。
結、結!…。
「東郷さんのそばがいい!東郷さんのそばがいいんだ!」
私は結を抱きしめた。
結は、先ほどのドキュメンタリーのようだ。
どんなに悲惨な状況でも、私に寄り添おうとする。
結と私を社会がどんなに引き離そうとしても、私たちは引きあってしまう。
惹かれ合うことがどんなに、まずいことか、わかりすぎるほどわかっている。
結を受け入れることは、ブラオミュンヘンを窮地に落とすことになる。
それでもいいのか!?
許されることなのか?
これは何かの天罰なのか…。
理性で何もかも抑え込めるはずの私が、この感情を抑え込めない…。
私は、結を玄関内に入れた。
家の中に入れてしまった。
灯りを点け、結の手を見た。
バラのとげで傷ついた、手を手当てしてやらねばなない。
手を洗わせようと洗面所の方へ連れて行こうとすると、結が言った。
「抱いて。今すぐ。夜が明けてしまわないうちに。」
「結…。」
結の手を洗面所でそっと洗い、私は結を抱き上げた。
「東郷さん…。」
「先がどうなるかわからない。でも、今夜はすべてのしがらみよりも君を優先する。」
私は、結とベッドの上にもつれこんだ。
結が痛いはずの手で私のシャツの胸ボタンをさぐる。
その手を外して、私は自らボタンを引きちぎるように外した。
結は吸い寄せられるように、私の胸に埋めて来た。
「東郷さん、東郷さん。」
お互いの隔てるものが何もなくなり、私たちは激しく抱き合った。
宙を掻くように泳ぐ結の腕に自分の背を与えた。
結の胸、腹、更にその下、細身のものにキスをして行く。腿を過ぎ、脚の甲を手に取ってキスしてやると、結が声を上げた。
「あっ…。」
「久しぶりだろう?君が受け入れられるかどうか…。」
私の両肩に載せられた結の脚を取り、上に折り曲げて開かせた。
「いやっ。」
指の腹で蕾のくぼみを探る。
「んんっ。」
舌で触れたら、結の身体がはねた。
「いやあっ。」
B L ♂ U N I O N
おいおい、ここで切るのかってな所で今回終了。再会シーンでは窓の3階と1階でロミオとジュリエットな東郷と結でした。拍手絵も更新です。 ]]>ロミオとジュリエット 66 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=134 2021-03-19T15:17:00+09:00 2021-03-21T07:59:47Z 2021-03-19T06:17:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、いる。
結が目の前にいる。
あれほど焦がれた結が。
別れを告げた後も、私は苦しみ続けた。幾日も、幾日も…。
「... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、いる。
結が目の前にいる。
あれほど焦がれた結が。
別れを告げた後も、私は苦しみ続けた。幾日も、幾日も…。
「まあ、王子様のお越しよ。」
三井外務大臣が私のそばで言った。
何と言っていいのか迷い立ち尽くす私に、結の方から近付いて来た。
「道ノ瀬結です。パリバレエ団でバレエをしております。」本物の王子の様にゆったりと話しかけて来た。
結は、グレーのスーツを着ている。シルクなのだろう。結が動くたび微かに繊維がきらめく。
私はこのスーツを知らない。私の知らない服を着た結がいた。髪を撫でつけて大人びた感じがした。
「御高名な方なので存じ上げております。ブラオミュンヘンの東郷です。お目にかかれて光栄です…。」
「本日は、国民名誉杯の受賞おめでとうございます。」結は、ただ優雅にほほ笑んだ。
「ありがとうございます…。」
「僕、サッカー好きなんです。パリの自宅で、時々試合を見ています。」結は、頬を上気させて言った。
あの時と似ている。
3年前、結と初めて会った夜だ。
パーティで、こんな出会いだった。
あの時も、結から声をかけてくれた。
「嬉しいです。道ノ瀬さんにそう仰っていただけて…。」
パーティでは感染を避けて、会食はなかったが、ドリンクのみ許されていた。
結が現れたことで、会場のホテルマンが結に、飲み物の種類を聞いて来た。
「オレンジジュースをお願いいたします。」結は言った。
「東郷監督、代わりのお飲み物をお持ちしましょう。ビンテージワインもご用意できます。何がよろしいですか。」
ホテルマンが聞いた。
「では、ノンアルコールワインをください。」
「お酒は召し上がらないのですか?」結が言った。
あの時と同じだ…。かわす言葉のひとつひとつが、あの夜にダブる。
結と初めて会ったあの時がよみがえり、大勢いるのにもかかわらず熱い感慨がこみ上げて来た。
私に、ノンアルコールワインが注がれ、結のグラスとカチリを乾杯した。
「まあ、おふたりともとても素敵ね。国民名誉杯の東郷監督と、W杯アンバサダーの道ノ瀬さん。またお写真いただこうかしら。」 三井大臣が再度スマホで写真を撮り出すと、周囲にいた招待客たちも携帯で私と結を並べて写真を撮り始めた。
携帯のシャッター音の嵐の向こうに、五代がいる。
五代は、すべての感情をその鉄面皮の下に隠している。
五代の他にも、この会場にいる政府関係者の中には、私と結がかつて恋愛関係であったことを知る人間がいるはずだ。
結は、記憶を失っている。
マネージャーの楠本氏は、日本政府が”それを好都合”と、とらえていると言った。
私は、さらし者だ。
それを楽しんでいる輩がこの会場にいる。
三井大臣は知らないのか。
知っているはずの磯崎首相は、今私が見える範囲にはいない。早々と退席したか。
「ではこの辺りで。」結と一緒に来たスーツの男性がそう言った。この男性は誰だろう。
楠本氏はどうしたのであろう。
仕事の時はいつも一緒のはずの、マネージャー楠本氏の姿がない。
結は、私に深く一礼した。そのしなやかな体つきはあまりに私の記憶に焼き付いている。
結は、踵(きびす)を返して行った。
結が、歩きながら、わずかに私の方を振り返った。
すぐに、先程のスーツ姿の男性が結を促し去らせようとする。
もう一度、何かを思い出すように、結が振り返った。
不思議そうに、確かめるように、私を見ようとする。
結!?…。
結!私を覚えているのか?!
しかし、それきりだった。
結は、同行者たちと楽し気に二言三言言葉を交わして行ってしまった。
結…。
やはり結の記憶は戻っていない。もう戻らないのかもしれない。
翌朝、私は宿泊するホテルでルームサービスの朝食の後、コーヒーを飲みながら新聞を見ていた。
私が載っているので、ホテルが新聞各紙を集めて持って来てくれた。
「全誌1面に載っていますね、監督。」五代が言った。五代がそばにいる。
国民名誉杯受賞の自分の写真を、私は苦い思いで見ていた。
その時、テーブル上に置かれた、五代の携帯が振動する音がした。
「はい五代です。」
「なんだ、あの東郷と言う男は!」
いきなりの怒鳴り声に、五代がスマホを耳から離した。
「葬式みたいなかっこして来て。国民名誉杯を授与してやったのに、終始仏頂面して嬉しそうな顔ひとつ見せない。誠にけしからん!
しかも、今朝の新聞に載ったのは、首相でなく、東郷と道ノ瀬の2人の写真だ。各紙みんなそうだ。
いいか、五代さん。大事なのは首相と東郷監督の和やかな写真だ。報道陣にもう一度撮らせる。
首相は、3日後の昼食会に東郷監督を呼ぶと言っている。監督に話をつけて来るように。」
「しかし、局長。東郷監督にもスケジュールの都合があります。さすがにそんな急なお申し出は、」
「五代さん、必ず監督を連れて来るように!」
ブチっと通話が切られる音が、私にも聞こえた。
五代は、ため息をついてスマホの通話終了ボタンを押した。
「ご説明しなくても、十分聞こえましたよね。」
「無理です。私には3日後試合があります。明日の飛行機でドイツに戻ります。」
「東郷監督、御無理は承知の上で申し上げています。」
「首相の申し出なら何でも叶うと、勘違いしないでいただきたい。」
「道ノ瀬氏のことをお怒りでしょうか?信じてください。道ノ瀬氏が来賓するとは、予定になかったことです。少なくとも私には知らされていませんでした。」
「道ノ瀬氏のことしかり、昼食会しかり、あなた方政府のすることは、めちゃくちゃだ。」
人を何だと思っている!
私と結を別れさせ、結の記憶を失わせ、私の父を死に追いやった。
その私に国民名誉杯をやるから日本に来い、昼食会に出ろと言う。
ふざけるなと言いたい。
だが、ブラオミュンヘンを人質に取られている私は、耐えるしかないのか。
「3日後、首相昼食会で官邸にご一緒に参ります。ブラオミュンヘンに次の試合は出られないとご連絡ください。」
「五代さん、あなたには、ブラオミュンヘンが私にとってどれほど大事なものか分かっていない!」
「監督、申し訳ありません。私は政府のために職務を遂行するのみです。でもあなたを守りたいという気持ちは十分あります。それでお許しいただけませんか。」
「困ります。私はブラオミュンヘンの監督です。急きょ日本の首相の昼食会に呼ばれたからって試合を休むわけにはいきません。」
当たり前だ。
サッカーの試合スケジュールにまで介入して来るのか。
冗談ではない。
「大変申し訳ありませんが、監督がブラオミュンヘンを守りたければ、私といるよりほか有りません。」
「私は、使い出のある資産と言うわけか。」私は、国民名誉杯と言う飾りを付けられた奴隷だ。
「日本政府はあなたが協力してくれる限り、悪い様にはしません。そして、私はあなたに惹かれています。それは偽りではありません。現に私は、道ノ瀬氏の登場にショックを受けました。三井大臣が知らずに道ノ瀬氏をお呼びしたのだとは思いますが。」
「顔色ひとつ変えなかったあなたが?」
五代は、困ったように少し笑った。
「職務上、有事にも冷静に対応できるよう努めています。監督と同じです。でも、私にも心配事はあります。あなたは、道ノ瀬氏を慈しむような目でご覧になっていた。彼はアイドルの様に愛らしくて、何度でもあなたの心を奪いそうな気がします。」
「五代さん…、あなたはこの日本と言うシステムに順応し、その中で勝者になろうとする。あなたはそれで満足ですか?」
「監督ともあろう方が、”青い”ですよ。
私は、自分を捨てて得を取ったのです。言いたいことを言っていれば地位も失います。自分を捨て自分の居場所を得るのです。何が正義かではなく国の利益のために働くのが私の職務です。たとえそれが戦争だとしても。」
「五代さん、あなたには上司が沢山いて、若いあなたは自分を殺さねば生きていけないのでしょう。国家権力の中で生きようとする古いタイプの人間が多ければ多いほど、現在の仕組みが残る。国家権力は家父長制の産物です。
日本の経済が傾いたのも、私や道ノ瀬氏の様に性的差別を受けるのも、古いタイプの政官財の権力者が多いからです。私はそう言う社会になじめない。W杯で巨額利益を日本に持ち帰れるか否かは戦争だと、あなたは言った。外交官として世界を知っているあなたがそのような旧態依然とした考えで、世界で勝ち残れるとお思いですか。」
「監督、残念ながらここは日本です。3日後の昼食会では、首相を怒らせないようにお願いします。正直私は、監督を心配しております。国家権力を甘く見てはいけません。
監督、あなたが国の政策に従わない場合、更に厳しい措置が取られます。」
また圧力か。
「道ノ瀬氏には、彼が子供の頃からのマネージャーがいらしたでしょう。」五代はふいに私に言った。
「楠本氏のことですか?そう言うえば、今回姿が見えなかったが。」
「彼は、道ノ瀬氏の記憶障害のことを東郷監督あなたに話したでしょう?それで更迭されたのです。」
私は、耳を疑った。
更迭したのはパリバレエ団でも、そこへ追い詰めたのは日本政府だろう。
結は、マネージメントからスケジュール調整、送迎のすべてしてくれる楠本氏がいなければ、非常に困るはずだ。
楠本氏は、どんなことからも結をかばってくれる。
腹心を失った状態で、結はアンバサダーをさせられているのか。
「厳しい措置がこれ以上広がらないようにしてください。あなたのお母上や、妹さまたちにまで。」
「何だって?!」
「お願いです、ブラオミュンヘンに試合を休むとご連絡ください。」
「お願いです…。」
五代は、消え入るような声で言った。
たかが昼食会に出るために、試合を欠席しろと言うのか。監督になって父の忌引き以外、試合を休んだことは一度もない。
父が亡くなったことを知った時も、ピッチに立っていた。
私は、ドイツで監督として生きるために血のにじむような努力をして来たのではないか。
19歳で大怪我し選手生命を絶たれた。その後、選手やファン、本当に多くの人に助けられて来た。
才能ある選手たちが死に物狂いで闘う試合。それを私が指揮しなくてどうする。
私は、テーブルの上にあるスマホに手を伸ばした。
アドレス帳から、ブラオミュンヘン事務所の電話番号を探し出す。
ブラオミュンヘンとシュタイナー会長に連絡しなければならない。
「そうか、わかった。」私の電話に、シュタイナー会長はそれだけ言った。
首相のどうしてもの申し出にあらがえないと思ったのだろうか。
監督の代役には、アシスタントコーチを指名した。
私は電話を切った。五代は私の肩に腕をからめ、私を見つめた。
ゆっくりと私に唇を重ねて来た。
昼食会は、首相、三井外務大臣ら閣僚数人と私、と言う顔ぶれだと言う。
当日、官邸にセッティングされたテーブルウェアに、11時30分に私は着席させられた。
食前酒が提供されても、首相だけが来なかった。
閣僚たちは歓談していたが、首相が一向に来る気配がない。
コース料理とは別の軽いサンドウィッチが出された。
三井大臣が、「首相、遅くていらっしゃるわね。でもいつものことですのよ。」と私を会話に誘うおうとするが、参加する気にもなれない。
私は腕時計を見た。2時を回っている。
「いやあ、遅れて申し訳ない。東郷監督にもお待たせして失礼いたしました。」
2時15分になって磯崎首相が現れた。
「皆さまお集まりで、」
首相が私の隣りに着席して、カメラマンが呼ばれ写真が撮られた。
続いて、スープが提供されたが、側近らしき人物が急に入って来て首相に耳打ちした。
「申し訳ない、ちょっと所用ができまして。これにて失礼いたします。」
首相はものの10分もいなかった。
それきり戻って来ない。
ばかばかしい!
たかが10分のために、私は大事な試合を棒に振ったのか。私はドイツで待つ、選手とファンを大きく裏切ってしまった。
私も、これにて失礼しますと、言いたかった。しかし、部屋の入口の方に五代が立っていた。
立ち上がるなと、目で言っている。
怒りで無言になりながら、送迎の車に乗り込み、私はホテルに帰り、翌日ドイツに向けて飛び立った。
同行している五代は、私の怒りを察してか、話しかけて来なかった。
フランクフルトの空港に降り立った時は、少しほっとした。
入国審査のゲートに並び、ネクタイをしていない首元が寒いので、スカーフを衿の中に巻き付けた。
五代はジャケットを羽織ろうとしているが、機内持ち込み用のショルダーバッグが邪魔なようだ。
バッグを持ってやると、「ありがとうございます。」とにこりと笑った。
後ろ襟がひっくり返っていたので、直してやった。
「監督、何と申しますか…、お母さんみたいですね。」
「選手にも言われます。今朝は何食べた?体を冷やしていないか?夜更かししていないか?選手の健康に気を
配るのも私の役目だから。その選手たちの元にようやく帰って来れた…。」
結の記憶は戻らない。私を見ても結局思い出せないようだった。
結には誠に申し訳ないと思っている。
でも、私のことを忘れて生きて行けるのなら、それはそれで良いのかもしれない。
結とは終わったのだ。
私にあるのは、もはやブラオミュンヘンの選手とファンだけだ。
「すみません。監督にはいろいろ辛い思いをさせてしまいました。」
今度は五代が手を伸ばし、私のスカーフを少し整えた。
続いて、五代は自分のバッグの中を何か探していたが、私は入国審査のカウンターに呼ばれた。
次に私と五代は、手荷物受取所に移動した。
日本からの便なので、いつもなら日本人が多いが何せパンデミックで乗客が10分の1しかいない。
日本人よりもドイツに帰国するドイツ人が多い。機内もドイツ語ばかりが聞こえた。
大柄なドイツ人が、こちらに移動して来る。その中に、青い上着に白いパーカーの若者が見え隠れした。
私は二度見し、目を疑った。
「監督、トランク!」
五代が急いで、私の取り損ねたトランクを降ろしてくれた。
結?
結か?
五代も気づいた。
なぜ結が、ドイツのフランクルフルト空港に?
パリに帰ったのではなかったのか?
東京で見たスーツ姿の男性もいた。楠本さんの代わりのパリバレエ団職員だろうか。
結が、私に気付いた。近付いて来る。
「またお会いしましたね。先日はありがとうございました。」
記憶を失ったまま結は、にこやかに私に話しかけてきた。
「こちらこそ、ありがとうございます。」
「道ノ瀬さん、ドイツにいらしたのですか?パリへお帰りだと思っておりました。」五代が言った。
「ええ、フランクフルトで公演にゲスト出演するのです。」
「監督、サッカーの監督なのでしたね。僕もサッカー好きです。」
結は記憶があいまいで、無邪気な子供のような言い方をした。
「嬉しいです。」私は話を合わせた。
五代へも結は微笑んだ。結が五代を見ている。
その笑顔が、何が起きたのか、みるみる凍り付いた。
「道ノ瀬さん、どうかしましたか?」五代が聞いた。
「その、ポケットチーフ…。」結が、五代のポケットチーフを見ている。
私は結の視線の先を見てギョッとした。
五代の胸にあったポケットチーフ。先ほどまではなかった。バックの中を何か探していたが。
私の締めているスカーフと共布だ。
そうだ、五代が初めての逢瀬の記念にと、私から抜き取っていったものだ。
私は驚き、五代の表情がわずかに強張るのが見えた。
「監督、参りましょう!」五代が私の腕を掴んだ。
「待って!」
「東郷さん!」”東郷監督”でなく、結は以前と同じ呼び方で私を呼んだ。
「どうして、五代さんと一緒にいるの?いつから?!」
「いつからふたりは?!」
結の剣幕に、乗客が皆振り返る。周囲はドイツ人で日本語はわからない。けれどこのただならぬ状況はわかる。
「付き合っているんだね!」
「東郷さん、きっとあなたを奪い返すから!
好き!今でも!好き!大好き!」
B L ♂ U N I O N
さあ、結の記憶が戻りました!更なる嵐が。修羅場って来ましたよ〜!www拍手絵も更新です。
]]>ロミオとジュリエット 65 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=133 2021-02-23T18:39:00+09:00 2021-02-24T02:44:32Z 2021-02-23T09:39:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、セーヌ川に落下してから、2か月が過ぎた。
「監督、国民名誉杯受賞決定したんですって!?」
ブラオミュンヘンの... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、セーヌ川に落下してから、2か月が過ぎた。
「監督、国民名誉杯受賞決定したんですって!?」
ブラオミュンヘンのトレーニング場玄関で、私の秘書、小崎が満面の笑みで言った。
「そのようだね。」
「何ですか、その力のない口ぶりは。」
「気が進まないんだ。」
「名誉なことじゃないですか。日本大使館の五代さんが、打ち合わせにお伺いしたいってさっき電話がありましたよ。」
「そう…。」
五代なら、昨夜も私の屋敷に来ていた。
お手伝いのジップが仕事を終える夕方、入れ替わるように現れた。
いぶかしるジップをものともせず、自分の居場所はここだとばかりと入って来る。
私が断ったはずの、国民名誉杯受賞の段取りは勝手にどんどん進んで行った。
私の意志などお構いなしなのだ。
「断る方もいらっしゃいます。でも監督の場合は、断っていただくことは叶いません。これは国策です。」
私の髪に指を入れながら、五代はそう言った。
「生きている限り、叶いません。」
何と不自由な命よ。
「私は、監督あなたに、私の父の様になって欲しくないのです。」
「五代さんのお父さんは、戦争に反対して外交官辞任に追い込まれたのでしたね。それは人として正しかったからでしょう。」
「正しいだけでは生きていけません。監督が国民名誉杯を受けなければ、日本政府のみならずブラオミュンヘンが難色を示すでしょう。」
それは困る。
ブラオミュンヘンには、私は多大に恩がある。まさに、結にとってのパリバレエ団と同じだ。
「そんな絶望的な表情なさらないでください。あなたは、ブンデスリーガ最高の監督でしょう?」
五代が、私に唇を重ねて来た。
柔らかく重ねた唇が、舌が、深く深く、舌を探して動き回る。
「これは血を流さない戦争なのです。パンデミックで世界中の経済が停滞する中、我が国も生き残りをかけて戦うのです。死んでも利益は持ち帰らねばなりません。監督にも働いていただきます。」
五代は、自らシャツを引き抜き、ベルトを外し、スラックスを床に落とした。
結が、セーヌ川に落下して2か月の間に、自殺未遂の噂も立ち消えた。
自殺未遂と報道したドイツのタブロイド紙は、政府か結のスポンサー企業に金を掴まされたのかもしれない。
事実通り、結は過ってセーヌ川に落ちたと言うことになった。
いや過ってではなく、私の贈った指輪と時計を追いかけて…。
2か月前のあの日電話越しに聞いた、楠本氏の声は苦しげだった。
「道ノ瀬は体調に問題はありませんが、記憶が欠けるのです。」
「え?」
「川に落ちたショックで、東郷監督、あなたと過ごした月日、そしてアンバサダーを嫌がっていた記憶がすっぽり抜け落ちているのです。」
「…そうなのですか?!」
何と言うことだ。結…。
「道ノ瀬がパリバレエ団のスターダンサーである以上、スポンサーを裏切るわけには参りません。道ノ瀬は、この春正式に政府のアンバサダーに就任します。
政府は、道ノ瀬が一部記憶を失ったことをこれ幸いにと考えています。
そして、それを”世間には伏せろ”と秘密裏に通告して来ています。世論に騒がれたら厄介だからです。」
何と。結が記憶を失ったことはおそらく五代は知っているだろう。
それを五代は私に言わない。
あの男、やはり私をはめるために近付いたのか。
「楠本さん…、なぜ私に、話してくださったのですか?」
「監督、私は道ノ瀬を世界的バレエダンサーに育てて来たメンバーのひとりです。道ノ瀬に会ったその日から、私は彼を宝物のように大事にして参りました。その道ノ瀬が辛さのあまり、監督、あなたの記憶を失くしたと思うと哀れです…。」
「楠本さん、ありがとう。あなたは、私とは敵対する立場でありながら、話してくださった。感謝します。」
「いえ、そんな風に仰っていただく資格は私にはありません。」
楠本氏もまた苦しんでいる。
結は記憶を失い、私は国家権力に押さえつけられなすすべもなく屈している。
そう、国家という巨大な権力によって…。
道ノ瀬結は政府のアンバサダーに、私は日本国内向けの広告塔に、全ては政府の思い描いた通りだ。
私を縛り付けておくために、五代はハニートラップを命じられたのか。命じられたからなのか。それとも、本心から私に近付いて来たのか分からない。
その両方かもしれない。
私は、国民名誉杯受賞のために、一時帰国することになった。
日本人であれば、感染症検査はあるが帰国は出来る。
帰国したのは私一人ではなかった。
飛行機は、パンデミックで定員の10分の1くらいしか乗っていない。私の座ったビジネスシート、1席をおいて向こうには、五代が座っていた。
首相の代理として、私に国民名誉杯を打診し、私の担当者として同行している。
こうやって、私は、権力に翻弄され流されて行くのか。
飛行機の轟音が鳴り続ける。
キャビンアテンダントが、白い磁器の食器に食事を載せて運んで来た。牡蠣とマッシュルーム、アーティチョーク、チーズにグリンピースソースがかかったサラダ。
メインディッシュの牛ステーキに白キャベツのソース。
五代がドイツ語の標準語で白ワインを頼んだ。
「お酒を召し上がらないのでしたね。」五代が言った。
「ええ。赤ワインは好きですが、節目以外はいただきません。五代さん、あなたはどこでドイツ語を覚えたのですか?」
「私が小学生の頃、父がドイツ大使でした。監督はお父上の転勤でドイツにお住まいだったのですよね。」
「ええ。南西ドイツに家族と住んでいました。私の言葉は、南西ドイツのなまりがあります。」
料理が、次々に運ばれて来たが、あまり食べる気になれなかった。
私は、早々にキャビンアテンダントに食後のホットコーヒーを願い出た。
その時、飛行機の機体が大きく揺れた。
気流の変化で少し揺れるので、シートベルトを締めてくださいとの機長アナウンスが、ドイツ語、英語で流れた。
ホット飲料のサービスが停止し、シートベルトランプが点灯する。
国際試合の移動、日本との往来で、乗り慣れたはずのジェット機の揺れがいたく気になった。
機長は、”少し”と言ったが、かなり揺れる。
11時間半近く飛んで、ようやく日本だ。
着陸態勢に入るとの、機長アナウンスがあった。フライト中何度目かのシートベルトランプが点灯した。
飛行機が、着陸に備えて高度をどんどん下げているのを体感する。
ズシンッとした軽い衝撃音の後、滑走路を走るのを感じる。
ようやく、着いた。
国民名誉杯当日まで、私は都内のホテルに滞在していた。
神奈川県の実家には立ち寄っていない。結と別れたと、妹の恵に伝えたから母も飛鳥も知っている。
国民名誉杯を受けることは伝えたが、「どーせ、政府がよこす賞でしょ。」とすげなかった。恵に至っては、「賞を断れ」と言って来た。
父のことがあって以来、母と妹の政府不信は頂点に達している。
母と妹にとっては、私と結が別れたことの方がショックが大きい。
当日、私の宿泊するホテルの玄関に政府から差し向けられた黒塗りのフォーマルセダンの送迎車が来た。
「監督、おはようございます。」車の中から黒い礼服の五代が降りてきた。
「お世話になります。」私が車に乗り込むと、運転手がうやうやしくドアを閉めた。
「お似合いです。監督はそのスタイルが一番です。」五代が言った。
フォーマル指定のドレスコードを言われたが、タキシードは着たくない。そんなおめでたい気分ではない。
結局、黒に近いダークグレーのスーツとネクタイにした。私の試合に出る時のスタイルで、トレードマークだ。闘いに出る時の服だ。
官邸の表彰式会場は、間隔の置かれた椅子が置かれていた。部屋が広く、たくさんの人が招待されていた。
五代も、担当者として私に付き添っている。
磯崎首相から、私は表彰状と盾を受けた。首相から祝辞を言われたが、官僚が作成した文章だろう。
磯崎首相は五代とも何か言葉を交わした。
五代は、外交官だけあって、典雅な雰囲気をまとわせている。
事前に私は記念品の希望を聞かれていたが、それは辞退した。
表彰式後、記者会見を行い、私は金屏風の会見席に座らされた。
五代が、何やら紙を数枚持って来て、私の会見席のテーブルに置いた。テーブルに飾られた花で、紙は見えない。
そこには、記者の質問が箇条書きで書かれていた。
「今日、監督が受ける質問です。」五代が言った。
聞かれることがあらかじめ分かっているのか。
バカらしい。すべてが茶番なのだ。
驚いたことに、記者質問に対し、私の模範解答までが書かれている。
嫌気の差した私に、五代が小声で言った。
「いいですか、監督。意に添わなくても、我慢をお願いいたします。監督がもし本音を仰れば、ブラオミュンヘンにも差し障りがあります。ナマなので編集は出来ません。」
テレビ局の中継カメラが後方で回っている。
司会者が私のいる金屏風の外で、マイク前に立った。
「パンデミックのため、記者は代表者のみの質問となります。では、質問のある方は挙手をお願いいたします。」
「東郷監督、国民名誉杯授与されたお気持ちについて、聞かせていただけますか?」一人目の記者だ。
「本日、この賞を授与していただき、改めて大変名誉ある賞いただいたと実感しております。」
「抱負をいただけますか?」2人目が台本通りに言う。
「これを大きな励みとして、引き続きブラオミュンヘン監督として、選手たち、ファンの皆様とともに前向きに進んで行きたいと思います。」
官邸で表彰式、記者会見を終えた後、ホテルで祝賀会が行われるので移動した。
食事を伴うパーティはなかったが、かなりの人がホテルの大広間にいた。水引で結んだ引き出物が各テーブルに配布されている。
ニュースで時々見る、大臣が私に挨拶に来た。
「物静かな方なのですね。」マスクをした小柄な女性だ。三井何とかという外務大臣だ。外務大臣だから、五代の上司だ。
パンデミック禍で、べらべらしゃべる方が危険だろう。
私は長話にならないように、マスクの下で笑みを作った。
三井大臣が、引き続き私に声をかけて来る。
「東郷監督、一緒にお写真を撮らせていただいてもよろしいかしら。」
「大臣。東郷監督のファンになっていらっしゃるじゃありませんか。」そう言ったのは五代だ。
「いいじゃないの。ドイツにいて監督のそばに居られる五代君とは違うのよ。」
その時、広い部屋のはるか向こうのホテルマンが、中央付近のドアを開けたのが見えた。
すぐに、人が動きドアもホテルマンも見えなくなった。
しかし、どよめきが起きた。誰かが来たことを伺わせる。
「まあ、嬉しいわ。監督とご一緒だなんて。」三井大臣がブランドもののハンドバッグから携帯を取り出し、自撮りをしようとしていた。
「背がすごくお高いから、一緒に入るのが大変ねぇ。笑」
三井大臣は、ファインダーに自分と私を収めるのに苦労している。しかし、私は人垣の方が気になった。更に大きくざわついている。
「あ、ブレたわ。監督もう一枚!」
「すみません。」そう言いつつ、私はもう三井大臣を見ていなかった。
私は、目を伺った。
!!
結?!…。
結!!
人垣の中に、結が、いる。
三井外務大臣が私に言った。
「W杯日本アンバサダー道ノ瀬結さんですね。世界的バレエダンサーの。ちょうどご帰国された時期でしたので、本日ご招待申し上げたのです。監督に、ご紹介いたしますわ。」
結が、近付いて来る。 私は鼓動が大きくなるのを感じた。
B L ♂ U N I O N
仕事繁忙期終え、バラの剪定終え、さあてロミジュリ書くかなと思ったら、管理画面に入れない不具合が発生していました。(-_-;)。4日待って入れた時はようやく会えたよ東郷、と思ってしまいました。www
拍手絵更新ありです。
2021年2月23日19:19の拍手様 コメント感謝いたします。>ドキドキの展開です→結が出て来ました。東郷ぶんなぐられる?!www。またぜひいらしてくださいね〜。
]]>ロミオとジュリエット 64 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=132 2021-01-18T16:39:00+09:00 2021-01-23T02:42:11Z 2021-01-18T07:39:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、セーヌ川に落下。自殺未遂か?!
そのテロップに私は驚愕した。
私は身なりを整え、ソファでまどろんでいる五代を起し... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結が、セーヌ川に落下。自殺未遂か?!
そのテロップに私は驚愕した。
私は身なりを整え、ソファでまどろんでいる五代を起した。シャツを拾い急いで服を着せた。
「どうしたのですか、監督。」圧力すら感じるいつもの五代とは思えないゆったりとした物言いをする。
「悪いが、急用が出来た。」
五代が私の目を見た。
私の瞳の奥の動揺までも見通すような目をする。
五代は20代後半で早くも二等書記官になった切れ者だ。私に何か起きたことが直感的にわかったのかもしれない。
たとえ今分からなくても、すぐにばれる。
とにかく、五代を帰さねばならない。
五代が、静かに私の胸に寄り掛かって来た。
「このポケットチーフ、私にください。今日の記念に。」
そう言い、カジュアルジャケットのポケットチーフを抜き取り、キスをした。
五代の車が私の家を出て行く頃、私は結のマネージャー楠本氏に、電話とメールをした。
電話は留守電で、メールには返事はなかった。
結の安否を知りたい。
結はどうなったのだ。
東京の、道ノ瀬弁護士事務所にも連絡した。
結のお母さんが電話に出た。
こちらから、事情を説明するまでもなく、結のお母さんが会話の口火を切った。
「監督、結は救助され病院に搬送されたそうです。なぜ?、なぜ息子は冬のセーヌ川に落ちたのでしょう?」
「大変申し訳ありません。何とお詫び申し上げたらよいか、言葉が見つかりません。」
「息子がフランスに渡ってしばらしくしてから連絡が来たのです。ふたりは別れたそうですね。」
結のお母さんは、難しい事件をも扱う弁護士だ。
常に冷静で取り乱されることはない。しかし落胆と疲れが声ににじみ出ている。
「このようなことになってしまい、深くお詫び申し上げます。」
「幸い結は、命に別状はありません。電話でもLINEでも話すことが出来ました。本来なら、親である私たちがパリに行かねばなりませんが、現在パンデミックの最中にあり日本に帰国した後2週間隔離になります。私共には公判があり、そんなに長い間休むことが出来ません。」
「道ノ瀬さん、」
私は、”お義母さん”と呼ぶはずだった結のお母さんにそう言った。
「はい。」
「別れてしまった私が許されるかどうかわかりませんが、結さんの元へ行っても良いでしょうか。」
「監督、伺ってもよろしいですか。」
「はい。」
「なぜ、息子とお別れになったのでしょうか?」
私は、押し黙った。
しかし、結のお母さんは、差別やLGBT問題を扱う法律の世界に生きる人だ。
その深い見識と良心に、私は助けを求めたかった。許されるものならば。
「道ノ瀬さん、ご承知の通り結さんはW杯アンバサダーに就任しています。次回の開催地はLGBT禁止国です。政府や企業の巨額の利権が絡んでいます。結さんがLGBTであることはあり得ないのです。政府は私の存在が邪魔なのです。」
「やはり…、そう言うことでしたか。」
「道ノ瀬さん?」
「W杯アンバサダーに就任と聞いて、私たちは疑問に思ったのです。結で大丈夫なのかと。」
「私の父の会社が、一時期顧客がどんどん離れて行き、倒産寸前まで行っています。家宅捜索されて、道ノ瀬弁護士に助けていただきました。」
「ええ。もしや、その倒産寸前まで行ったと仰るのは、」
「政府の圧力です。」
「結と別れたことも、政府の圧力ですか?」
「そうです。次回の開催国は、LGBTの旅行者が投獄される国です。別れなければ、結さんに危害が及ぶのです。」
そう、五代が私に言った。
その五代と私は、ただならぬ関係になってしまったが…。
私は、結のご両親の許可を得て、車でパリに向かうことにした。
結には、すんなりと会えるとは思っていない。
出かける前に、もう一度結のマネジャー、楠本氏に電話をかけてみることにした。
「監督。」
「楠本さん!」楠本氏が出た。
「結は!?いや道ノ瀬さんの具合はどうですか?」
「…あなたは、もう道ノ瀬結とは関係ないはずでしょう。」
「結が、いや道ノ瀬さんが、自殺未遂か?と記事で読みました。私の責任です。」
「そうです、あなたの責任です。でも、自殺未遂ではありません。」
「では、ない?」
「それ以上は申し上げられません。」
「では、私がパリへ行きます。」
「お断りします。」
「楠本さん、私は結さんのご両親からパリで結さんの様子を見て来るよう依頼されました。道ノ瀬ご夫妻に確認を取っていただいて構いません。」
「道ノ瀬のご両親からはご連絡をいただいています。道ノ瀬結は、ご両親のご子息ですが、パリバレエ団所属ダンサーでもあるのです。」
「それは、ごもっともですが。結さんの無事を確認してご両親に、」
「メディアは自殺未遂か?と書きましたが、そうではありません。道ノ瀬は死んだりしません。でも、道ノ瀬はあなたのことでずいぶん悩んでいたようです。」
やはり…、私ですら心身にこたえる。繊細な結ならなおさらのこと…。
「一昨日の夜、道ノ瀬の演目の無観客公演があったのです。オンラインチケットは、空前のアクセス数で、道ノ瀬も他の出演者も興奮冷めやらない様子でした。ファンの皆様から送られて来た花束を沢山車に積んで、私は道ノ瀬を自宅へ送ったのです。
セーヌ川の橋を渡ろうとした時、道ノ瀬は言いました。ここでちょっと降ろして欲しいと。
道ノ瀬は、しばらく、寒い中、暗いセーヌ川の水面を思いつめたように眺めていました。
そして、道ノ瀬は独り言のように言ったのです。」
”「僕がバレエを続ける限り、多くのことは望んではいけないんだよね。」”
”「東郷さんは、もう、帰って来ない…。」”
私は、心臓を掴まれたような気がした。
「そして、東郷監督。あなたから贈られた結婚指輪を薬指から抜き取り、セーヌ川に投げ入れたのです。」
「!!…。」
「さらに、道ノ瀬はいつも腕にはめていた大きな腕時計を外し、それも川に静かに落としました。あれは、東郷監督、あなたの時計ですね?」
「…、そうです。」
結にあげた時計だ。まだ指輪を用意しておらず、プロポーズした時、誓いの証に愛用していた腕時計をその場で贈った。
「指輪も腕時計も、暗い川面に呑み込まれて行きましたが、それで終わらなかったのです。
”東郷さん!東郷さん!と、憑かれたように2度ほど川面に向かって叫んだのです。」
「道ノ瀬の目から、涙がたちまちあふれ暗い川に落ちて行きました。…そして、道ノ瀬は急に我に返ったように言ったんです、
”東郷さんからもらった指輪が!、時計が!”
あっという間に、道ノ瀬は橋の欄干を駆け上がり、指輪と時計を追いかけて川に飛び込んでしまったのです。」
なんと言うこと!
なんと、言うことだ…。
バレエで鍛えた跳ねるような身体が、セーヌ川の欄干を駆け上がり川に落ちるのが私には容易に想像出来た。
「監督。社会的状況、周囲の状況を考えて、おふたりはもう一緒にいられないことを道ノ瀬も悟ったのでしょう。あなたから別れを告げられたのですから。
でも、理性では納得しても、気持ちの上では監督、あなたをあきらめきれないのです。
だから、暗い川に沈んだ指輪を追いかけて、飛び込んでしまった。」
「それで、道ノ瀬氏は…。」
「病院に運ばれましたが、命に別状はありません。もう自宅に戻っています。」
私は、胸をなで下ろした。
「今週末には、変わらず、無観客でバレエ演目に出られるでしょう。」
「そうですか…。」
「監督、しかし、道ノ瀬結は、」
「楠本さん?」
「道ノ瀬結は…、」
「え?」
今、何と言った?!
苦しい、ふり絞るような楠本氏の声が続いた…。
B L ♂ U N I O N
あけましておめでとうございます。あまりおめでたくない雰囲気のロミジュリですが。
頼りになる結ママ。結ママの理解は得たけれども、東郷には五代との関係が…。 結の運命はいかに?!
拍手絵更新してあります。
]]> ロミオとジュリエット 63★ http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=131 2020-12-11T19:55:00+09:00 2021-01-18T07:28:28Z 2020-12-11T10:55:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「結構なお住まいですね。」五代は、元旅籠だった私の家を玄関を外から見上げて言った。
「そんなことを仰りにいらしたのでは... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「結構なお住まいですね。」五代は、元旅籠だった私の家を玄関を外から見上げて言った。
「そんなことを仰りにいらしたのではないでしょう。ご用件は?」
五代の勤務地はフランクルトの大使館だ。
アウトバーンで2時間かかる、うちまでやって来るには、それなりの理由があるはずだ。
「監督、道ノ瀬結氏のW杯CMはフランスでも流れ始めましたよ。サッカーの強豪国ですからね。盛り上がりもひときわです。」
私の屋敷は、バラと柵があるだけで、外からはよく見える。
垣根の隙間から、カメラを構える人物が見えた。
よそから来た、三文週刊誌の記者か。
私の住む町の人びとは、路上や街中で会っても、私のプライベートだと見逃してくれる。
あそこにいる記者はよそ者だろう。
撮られるのは迷惑なので、私は五代を家の中に入れた。
ジップが、リビングのドアの前で出迎えた。
「妙齢の女性がいらっしゃるんですね。」五代がちらりとジップを見る。
私は、五代を避けるようにジップをキッチンへ促した。
お茶の支度を始めたジップに、私は「今日はここまででいいから。」と仕事を上がるよう告げた。
ジップは、私の目を見て、五代が容易ならざる客だと認識したようだ。
「旦那様。」
私は彼女を安心させるために、小さくうなずいた。
ジップは、すでに結がうちに来なくなったことや、私が結と連絡を取っていないことに気付いている。ジップは私を心配してくれている。
私のスマホには、結専用のライン着信音があった。
それが、もう鳴らない。
私は、リビングにいる五代にコーヒーポットとカップを持って行った。窓から、ジップが庭を歩いて帰って行くのが見える。
「光栄です、監督にコーヒーを入れていただくなんて。」
「で、御用件は?」私は五代にコーヒーを差し出した。
「監督、今日、私はあなたに日本政府を代表して”国民名誉杯”受賞の受諾可否を伺いに参りました。」
「何ですって?」
国民名誉杯とはスポーツや文化・芸術部門で目覚ましい活躍をした人物と団体に贈られる国民的な賞だ。
「日本政府は、W杯の各地スタジアム建設や、関連商品生産のため、巨額の政府開発支援金を出して参りました。もちろんただであげたのではありません。
スタジアム建設、ホテル建設、ユニフォーム、靴、観戦ツアーなどのありとあらゆる分野のビジネス受注を日本企業が獲得するためです。
W杯には、非常に大きな金が動く。
参加国への根回し、人気タレントを使ったCMに惜しみなく資金を投入しています。
サッカーの分野で世界的に活躍する日本人、これまでの功績を考えて、東郷監督あなたを政府が推薦しているのです。」
「日本政府が私を表彰する?」私の声は皮肉がこもっていた。
「ええ。監督は簡単には喜んでくださらないでしょうから、正直に申し上げます。これは国策です。巨額の税金が投入されていて、それを回収しなければなりません。あなたに国民名誉杯を受けていただき、広告塔になっていただきたいのです。」
「国民名誉杯は、広告塔である私への箔漬けだと。」
「そう言うことになります。」
「断ります。」
「そうはいきません。」
「W杯の政府アンバサダーには、道ノ瀬結氏、そして協賛企業の日本国内向け広告には東郷監督あなたを使いたい。」
「今のお話は、聞かなかったことにします。お帰りください。」
「監督、私はあなたがうらやましいです。いつも、自分の意思を明確に仰る。」
「とにかく、五代さん。」
「我々は、組織が白を黒だと言えば”黒”と言わなければなりません。
そう言わない者は、社会的に抹殺されます。自殺者も出ます。
私の生きる世界では、自分の意見も、良識も邪魔でしかありません。
私の父も外交官でしたが、2010年の戦争に反対して外交官をクビになりました。
文書改ざんの濡れ衣を着せられ、辞職に追い込まれました。 今は失意のまま余生を送っています。」
「官僚は、天下り先が沢山おありなのでは?」私は五代に聞いた。
「父の場合は、一切ありません。冤罪そして辞職なので、退職金すらありません。
父は、私が外交官になることに反対でした。しかし私は、父がなぜそのような目に遭わせられたのか知りたく、この道に入りました。」
「なぜ、それを私に話すのですか?」
五代は私の言葉に、一瞬沈黙した。
「…そうですね、なぜでしょう。」
五代のクールな鉄面皮の下に、違う一面を私は見た気がした。少なくとも彼の父親は、1本筋の通った人物のようだ。
五代は、黙ってコーヒーを飲んだ。
「監督、ひとつ伺っても良いでしょうか?」
「どうぞ。」
「監督の御父上の会社経営は、その後、上向きましたか?」
私の父は、政府に圧力かけられ急死したと言っても過言ではない。
その加害者である政府側の五代が、しゃあしゃあとそんなことを聞いて来る。
私は、彼を見た。
私の腹の中にはもちろん怒りがある。しかし、今日の五代はいつものこの男と違うように感じる。冷たく官僚的な物言いをしない。
「多少業績は持ち直したようです。」結と別れたからだ。
「監督には、お辛い思いをさせてしまいました。」
”辛い”とは、結との別れたことを、意味している。
五代は既に私たちの別離を知っているはずだ。知っているからこそうちに来た。
「監督、私はあなたの苦しみを理解しています。」
「理解していただいても、結は私の元には帰って参りません。」
「政府はこの政策を絶対に曲げません。監督、道ノ瀬さんのことは、どうかお許しください。」
「五代さん、済みませんが、お帰りいただけますか。国民名誉杯の件は、受諾しません。これが私の答えです。」
私は立ち上がり、リビングのドアの前に立った。
ドアノブを掴んだ私の手を、五代の手が触れた。
「ハニートラップのつもりか?」
「ハニートラップだなんて。私は以前から東郷監督のファンです。」
私の肩、腕に、黒いスーツの腕が後ろからからみついて来た。
五代が、私の耳たぶを噛まんばかり囁く。
「もう、道ノ瀬さんはあなたの前に現れません。
パリでの公演は、オンラインチケットが空前の売り上げだそうです。
将来につながる、お子さんのお客を獲得するため、おまけをつけたチケットを販売したそうです。
日本のクリスマス時期に、ブーツにお菓子が入った商品があるでしょう?あれをフランスでも取り入れたそうです。
そうしたら大人に子供に大ヒット。
なんと道ノ瀬さんのアイディアだそうです。自らお菓子を選んでいるそうです。」
五代から、結の近況を聞かされるとは思わなかった。
それだけ、結はもう遠いのだ。
あのさびしがり屋で甘ったれの結が、私なしでも、しっかりと前を向いて生きている。
嬉しいような、寂しいような、我ながら感傷的な気持ちが一瞬よぎった。
深く息を吸い、私は言った。
「道ノ瀬氏とは、もう関係ない。」
「そうでしたね、失礼申し上げました。」
もうどんなにしても、結は私の元へは戻って来ない。
未来永劫、私と結は…。
そう思うと、抑えていた何かが私の中で音を立てて崩れ、飛び散った。
私は、五代の方へ向き合った。
五代の唇が私の唇を覆うのを合図に、激しく抱き合った。
結はもう帰らない。
私の腕、指の間からこぼれ落ち、もう二度と私の元には帰っては来ない。
結が戻らないなら、こうなることも運命なのか…。
どこまでもしなやかな結に比べ、細身でも男性的な身体だ。
五代が私のシャツのボタンを剥ぎ、スラックスから引き抜く。
胸の筋肉を、手のひらで撫でながら五代がキスして来る。
その背を、髪を、私が抱いた。
五代の反応が大きい敏感な部分に触れると、五代が同じように私に手を伸ばして来た。
簡単にイカせてはやらない。
深くキスすると、五代はまた私に触れて来た。
徐々に、お互いを探りながら高みへ上りつめて行く。
指をなぞらせて行く。
30分程度、柔らかく、じらしながら、全身を愛撫した。
五代が、懇願するまでゆっくりとじらして行く。
五代と寝ることで、私は結を忘れる。
結、結…。
私はもう、戻れない。
五代は、私の涙に気付くだろうか…。
「…。」
「たまらない。東郷監督。」
「私が感じたか、聞いてみないのですか?」
五代が私の肩口に頭を載せたまま言った。
「聞いてどうするんだ?だいたい、欲だけの関係は私は好きではない。」
そう、肉体だけの欲のために、寝たのではないのだ。
私は、悲しみを忘れるため、目の前の彼にすがろうとしている。これからは、彼に惹かれつながれて行くのかもしれない。
「紳士的で誠実な東郷監督らしい。でも情熱的ですよね…。あなたと、愛を交わして来た人がうらやましい。」
五代が私の首筋に顔を埋めた。
リビングの大きなソファの周りに、衣類が脱ぎ散らかされている。
五代は、ソファの上でそのまま浅い眠りについたようだった。
私が延ばした手の先に、スマホが触れた。画面を何気なく見た。
ドイツの、タブロイド紙のニュースが流れて来た。
どうでも良いような記事を流す新聞社だが、欧州で一番の売り上げだ。日本のスポーツ新聞のような物だ。
見る気もしなかったが、テロップが動くので目に入った。
”パリバレエ団の、世界的なバレエダンサー、ユウ・ミチノセ、パリセーヌ川に落下。自殺未遂か?!”
B L ♂ U N I O N
東郷は結と別れ、五代とこんなことをやらかしてしまいました。
読者皆さまから非難轟々でしょうか⁉汗。
寒くなりパンデミックで大変ですので、皆様何卒お気を付けください。
拍手お礼絵更新してあります。
★ ご愛読くださる皆様へ
嬉しいご感想いただき、全て何度も拝読しているフーゴです。とても励みになります。
私の遅筆にお付き合いくださり感謝しております。フルタイム仕事&家族にメシなどでなかなか時間が取れないでおりますが、東郷と結は実際にいるような気になっています。 これからもどうぞよろしくお願いします。
皆さまに良いクリスマスを。クリスマスもよろしければいらしてね。
12月25日21:50の拍手様 無事に秘密部屋に到着されたとのこと良かったです。迷惑メールの中に、ガーン。うそうそ。秘密の部屋でもお待ちしておりますわん。
12月20日11:19の夏子様 今年はお世話になりありがとうございました。まさかの展開ですね。東郷と五代がこ〜んなことに…。今年もあと11日ですね。良いクリスマスとお正月をお迎えください。夏子様、来年も当サイトに遊びにいらしてください。
12月19日17:32の拍手様 沢山の拍手とコメント心より感謝申し上げます。こちらこそ、いつも嬉しいご感想いただき大変励みになります。仰るごとく結と五代は対極にあります。ふたりとも、東郷に深く関係して来ています。当サイトは結ファンの方が多いので五代は悪役ととらえられますが、私は結構五代も好きです。(フーゴが一番悪党か?www)
政府も、実は創作であって創作で無かったりして。w
文章がお上手で、非常に骨のあるご感想をいただき、感動しております。気持ちが揺り動かされます。
>結さんは東郷さんを通して人生を深めていく」ということですが、
>本当にその通りですね。とても心に残りました。
>確かに、結さんは東郷さんと出会って成長していますよね。
ありがとうございます。東郷は、辛いことも悲しいことも静かに耐えて来た人です。結は、東郷を見て学んで行きます。
>秘密の部屋の申請をいたしました。まだ募集中でしょうか?
12月14日にパスワードをある方に送っていますが、あなた様ではありませんか?
もし違いましたら、何かの不都合で到着していません。
申し訳ありませんが、再度お送りいただけますでしょうか?誠にすみません。
12月18日15:21の拍手様 >第35話はとても辛いです。ちょっと前までとっても幸せそうな二人だったのに。
ご感想嬉しいです。東郷は、人生経験もある分、辛い経験もあります。結は東郷を通じて、知って行きます。
>一国民としては、LGBTの観光大使なんて、カッコいいと思います。
私もそう思います。海外では大臣も首相もいます。
そこを問題にする方がおかしいですよね。って自分で書いていますけど。w
>愛する人を亡くす悲しみには、慣れることがないといいますから。
そうですね。東郷もサイレンで思い出しています。
大変楽しく建設的なご感想いただき、感謝申し上げます。
対談でもさせていただきたいくらいです。www
12月17日17:59の拍手様 もしや14:56のかたと同じ方でしょうか。ご感想の文章が具体的で素晴らしくお上手ですね。読んでいる私が感動しております。
>31話も素敵です。まるで映画を観てるみたいです。うっとりしちゃいますー。
>少年と青年の両方を併せ持ってるって、すごく魅惑的でしょうね。
そこまで仰っていただき、心より感謝です。
>結さんは、魅力的な生命体って感じで。あー、あやかりたいです。
そのお言葉、結に伝えたいです〜。ありがとうございます。
>東郷さんも、まさかの不惑の40代で、こんな恋愛するとは思ってなかったでしょうね。
東郷の周りはサッカー選手なのでごつい人が多く、結のような人は珍しくて 「なんじゃろコレ?」ってな感じです。www。
>でも、実は彼みたいな大人な男性こそ、こんなふうに我を忘れる恋愛をしてみたいと思ってるのかも
>東郷さんみたいな、クールで落ち着いた大人な男性が、恋に翻弄されるって構図も惹かれます。
私よりも、東郷に詳しくないですか?wwwぜひお話引き続き伺いたいです。大人でしかもきちんとした男性が仕事はしなきゃならないし、でも恋愛には翻弄されるし、って言う姿、色気がありますよね。
12月17日14:56の拍手様 29話をお読みなりましたか。ありがとうございます。プロポーズの回ですね。結が東郷父に、「悟さんをください!」の回ですね。www
>周囲の愛情をいっぱい受けて育った素直で純真な結さん、本当に魅力的です。
結のことを深くご理解してくださり、本当に感謝しております。
>東郷さん、こんな人に出会って、本当に忘れることができるのかしら。
>結さんと決別するために五代さんと関係を持ちましたが。
さあ、これからの展開にご期待くださいね〜。
12月15日20:15の拍手様 東郷家での結宣言の回お読みくださりありがとうございます。結は繊細ですけれど大舞台に立つこと常です。思い切ったこともやれる勝負師なんです。www
>実は実は途中から読んでいただけで、何となく以前のストーリーを感じ取っていただけでした。こうして読ませていただくと、結さんや東郷さんの人物像に対する理解が立体的になってきますねー。
是非、第1回からお読みください。東郷の過去のパートナーや事実婚のことも出て参ります。
>26話東郷さんの妹さんが結さんを「綺麗」と言ってることに対して、東郷さんが、「見慣れているせいか、特に感想はない」などと仰っているのに、ちょいビックリです。「いつみても美しい」的な感想ないのー( ̄〜 ̄;)。確かに外見に惚れたわけではないでしょうがががー(^_^;)。
妹は初めて結に会ったので、綺麗と感想を述べました。東郷は、「いつ見ても結は綺麗」とデレデレしているタイプではないんですね。wwwまたいらしてくださいね。
12月15日01:15の拍手様 こちらこそ数ある中から当サイトをご贔屓にしてくださり感謝します。 独にお住まいでしたか。東郷や結の欧州生活は私の実生活がかなり織り込まれています。
>彼らの強い覚悟と互いへの愛情の深さに勝手に励まされています。
ありがとうございます。彼らは逆境は嫌いでないのかもしれませんね。東郷は元アスリート、結は自分をどこまでも高める芸術家です。東郷にはモデルがいます。
>いつまでも2人のお話を読んでいたいです。素晴らしい創作にお時間を使って下さりありがとうございます。
ご丁寧なご感想を賜り、深くお礼申し上げます。
12月12日17:59の拍手様 ご指摘鋭いですね。読み込んでいただき感謝です。諸橋は、現代のルサンチマンなんですわ。仰る通り男の嫉妬ですねー。東郷が諸橋に嫌なことしたわけではないのに付きまとわれます。
12月12日15:34の拍手様 どうぞ何度もコメントしてくださいませ。とっても嬉しいです。感謝しております。
一度、Hの理論的会談でもしましょう!www 受のセリフ別、今何が起きているか、等々。
>東郷さん、かなりのテクニシャンとみました。どこで腕を磨いたのでしょう????
東郷は解剖学にも長けた人です。どういう風にすれば感じてくれるのか理論的に考えます。元来身持ちは固いので、複数の人と経験はないでーす。w
12月12日13:14の拍手様 再読してくださりありがとうございます。14話は、結はオンラインゲームしたいから東郷に会いたくない回ですね。www。笑ってくださり嬉しいです。ほんと、結は現代っ子ですね。
12月13日01:50の拍手様 >超特急で一気読みいたしましたので、もう一度じっくり読ませていただきますね。
何度でもお読みいただけたら幸いです。
ありがとうございます。またいらしてね。
12月12日22:59の拍手様 いつもお世話になっております。どなた様だか、わかります。
>唯君が、のちのちこの事で傷つくのは避けて欲しいな。
>まあ、こう言う事がありながら人生は進んで行きますよね。
うんうんとうなずいているフーゴです。笑
苦しみながら東郷も生きています。ご自愛されてぜひまたお越しくださいね。
12月12日21:48の拍手様 コメント感謝いたします。
>五代は首しめ往復ビンタに蹴りです。←受けまくっているフーゴです。www
>結さんを立ち直らせてくれる良い男(東郷さんよりずっと)が現れることを願うばかりです。←あ、そう言う展開ご希望ですかwww。メモメモ…。
12月12日20:28の拍手様 >うわぁあああああああ何という事を…続きをお待ちしております
コメント感謝です。東郷は、結と別れたことで更に窮地に。またご覧くださいね。
12月12日20:22の拍手様 >早く結さんと東郷さんに幸せになっていただきたいです…
ありがとうございます。東郷は周囲の人のことを考え結と別れました。今後の二人をお見守りしていただけたら幸いです。ご自愛の上、またお越しくださいね。
]]>ロミオとジュリエット 62 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=130 2020-10-26T19:40:00+09:00 2020-12-05T01:44:27Z 2020-10-26T10:40:00Z
登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
さよなら、結、
さよなら…結、愛していたよ。
朝、私はドイツの自宅でひとり目覚めた。
夢の中でも、目覚めた今でも、... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット
登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
さよなら、結、
さよなら…結、愛していたよ。
朝、私はドイツの自宅でひとり目覚めた。
夢の中でも、目覚めた今でも、電話で聞いた結の叫び声が耳の中でこだまする…。
別れを告げたのは私なのに、私は苦しみ続けた。
眠りが浅く、夜中に何度も起きた。
身体が重い。
頭痛がする。
結と過ごした2年の月日。
結に、東京のパーティで初めて出逢った日。濃紺スーツが清々しい若者だった。
世界的な名声を欲しいままにする、若きバレエダンサー。
世界最高峰のパリバレエ団のエトワール(最高位の踊り手)。
君はまぶしいほど輝いて、私を取り込んでしまった。
若い情熱を惜しげもなくぶつけて来る結に戸惑いながら、君と付き合い、
この部屋で、私たちは初めて結ばれた…。
パリで結婚指輪を買い、互いの指にはめた日。
試合後、何者かに毒を盛られ入院し、結が駆けつけてくれた。
日本の私の実家で、一緒に過ごした日々。
今は亡き父が、結を私のパートナーとして認めた日。
こんなことになるなら、めぐり逢わなければ、良かった。
結の存在が、私の中で大きすぎる。
甘ったれで、繊細な結。
その結が、私と同じ苦しみを、今、耐えているかと思うと、身が引き裂かれる思いがする。
叶うならば、私のことは、どうか忘れて欲しい。
君を苦しめる全てから、君を解き放ってやりたい。
それが出来るなら、私はどうなっても構わない。
私が疲労のたまった体を起こし、ダイニングルームに行くと、ジップが朝食の支度をしてくれていた。
「おはようございます、旦那様。」
「おはよう…。」
猫が3匹私の元に現れ、足にまといつく。
寒くなって来たので、私のベッドに潜り込んで来るはずなのだが、昨夜は来なかった。
猫たちを撫でてやると、前足を私の足にかけ、食事を要求する。
ジップが私の朝食を作ってくれるキッチンで、私も猫の食事を作り始めた。
ひき肉を煮て、ジャガイモと人参ををふかして潰し混ぜて、3枚の皿に分けてやる。
芋の好きなアルマーニに多めのジャガイモ、肉好きなロマーノに肉を多く入れた。
私の気も知らないで、ガツガツ喰らっている。
食事を終え、出勤のため、庭に停めてあるベンツの所に行った。
庭師のパウルが私を見つけて話しかけて来た。
「おはようございます、監督。あとで街の園芸店に行って参ります。冬支度のためのビニールハウスや杭を調達してきます。」
「ああ、お願いするよ。」
私の家のある場所は、フライブルク郊外で少し標高が高い。
街中より冬が早く、もう朝は冬の空気だ。
もうすぐ、雪に閉ざされる。
冬の間、鉢物を母屋1階にある温室代わりの部屋に入れる。
春から秋までは、自宅で食べる分くらいの野菜を作っている。
レタス、人参やラディッシュ、ホウレンソウなどだ。
私は、収穫の終わった家庭菜園を薄らぼんやり見ていた。
「今月、苺の苗を植え付けようと思いますが如何ですか?」
「いいね。来年初夏の頃成るんだろう?苺は、…。」
そう言いかけてやめた。
”苺は、結が好きだった。”
「パウル、すまないが、苺はやめよう…。」
「え?」
私は、その日もその次の日も、魂が抜けたようになっていた。
私はサッカーの監督で、策士で、いちいち心の内を読まれるような振る舞いはしない。そのためか、私の変化に周りは気づいていないようだった。
試合後2日休み、3日目にはチームトレーニングがあった。
そして5日目には次の国内試合を迎えた。
相手は、フランクフルトの地元チームだ。
無観客のスタンド貴賓席に、ポツンと座っている人物がピッチから見えた。
ブラオミュンヘンのシュタイナー会長だ。
試合は、何があっても勝つことを優先しなければならない。
身内に不幸あろうと、恋人と別れようと…。
私は、心の内に苦しみを押し込め、必死に作戦を考えた。
試合後、監督控室に戻り、スマホの電源を入れると、電話着信を知らせるメールが届いた。
着信記録を見て、私は目が留まった。
日本から、そしてそれは5回もあった。
着信記録 道ノ瀬弁護士事務所
結のご両親…。
留守電メッセージが記録されている。
再生すると、
「結の母の、道ノ瀬です。お久しぶりです、監督。至急お話したいことがあり、ご連絡申し上げました。
監督の携帯の他、ブラオミュンヘン事務所にとも思いましたが、ドイツ語が得意ではないのでお許しください。
恐れ入りますが、道ノ瀬弁護士事務所までお電話ください。番号は…、」
結のお母さんが、至急連絡が欲しいと言っている。
私たちのことを説明しなければならないが、今すぐ折り返しかけるほど、気持ちの整理がつかない。
試合の疲れと傷心が、私をさいなんでいる。
コンコン。
その時、監督控え室のドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「監督、少し良いかな?」
シュタイナー会長の声だ。
「どうぞ。」
グレーヘアで大柄なシュタイナー会長が中に入って来た。昔サッカー選手だったので、老齢期に入った今も骨太な体躯は変わらない。
「監督、今日の試合も良い試合だった。」
シュタイナー会長が、言った。
「恐縮です。会長、先日のお話ですが…、」
「うむ。」
「道ノ瀬氏とのことは、清算しました。」
「そうか…。君には助けられた。ブラオミュンヘンの財政が上向いたなら、君に特別報酬を出すよう申請しよう。」
「いえ…不要です。」結に別れを告げて、報酬などありえない。
「失礼な言い方をしたかもしれない。すまない。でも、それくらいしか謝礼のしようがない。」
シュタイナー会長のしわが急に深くなったような気がした。
私を、サッカー監督として育ててくれたシュタイナー会長。
会長への恩返しと言うには、あまりに代償が大きかった。
試合会場から帰る、車運転中の私に今度は日本にいる妹、恵から電話が入った。
「お兄ちゃん!今いい?」スピーカーから、まるで弾丸のようにしゃべる声が聞こえた。
「良いよ、運転中だけど。」
「事故起こさないようにね!お父さんの会社が上向いて来たの。このパンデミック禍に。
お父さんの代わりに、副社長が社長になって、顧客取引も再開したの。
家宅捜索も入って、やはりお父さんの経営はまずかったのかな。
社長が代わったら、急に顧客が戻ったの。
「そうか。」
「もうだめかと思ったんだけどねー。顧客離れの上、パンデミックでしょ。
お父さんの会社、人件費が3割なのよ。冬のボーナスどころか給料もちゃんと払えない状態だったの。
何で、急に顧客が戻って来たか、不思議なんだけどねー。」
それは、”私が結と別れたからだ。”
政府は、関連各社に東郷製作所と取引すれば補助金を出さない等、圧力をかけていたと思う。
それを、取引再開をOKしたのだ。
私と結とのことは、政府の耳目に届いたのだ。
「…ねえ、お兄ちゃん聞いてる?」
「あ、うん…。」
「お兄ちゃん、結さんのW杯タカール大会のCMが日本でいっぱい流れているよ。」
「…。」
「お兄ちゃん、結さんのお母さんから電話がうちへあったの。」
「えっ?」
「結さんが、急にフランスに戻ったそうよ。」
「えっ?」
結はパリに住まいがあり、パリバレエ団のスターダンサーだ。入国することは出来るだろう。
それは驚くことではない。
しかし…、結が、車でも行ける、隣りの国にいる…。
それが、私の心をざわつかせた。
「でも、お母さんが電話しても結さんが出ないんだって。お兄ちゃんにも電話したって結さんのお母さんが言っていたよ。」
「気付かなかった。」気付いていた。でも私は、結と別れた後ろめたさで、結のお母さんと話せなかった。
「結さんのお母さん、道ノ瀬弁護士が説明してくださったのよ。タカールは中東です。同性婚及び同性パートナーは禁固刑になるって!結さんのCMは問題になるのではないかって。」
「…、恵。」
信号で車が停車した。
「なに?」
信号が変わり、すべてのミラーと左右を見て、私は静かにアクセルを踏んだ。
「恵、私は、結と別れたんだ…。」
「えっ?!」
「結さんのご両親、そして恵や家族みんなに歓迎してもらったのに…ごめん。」
「ちょっと待ってお兄ちゃん!」
雨がぽつぽつとフロントガラスに当たり始める。
「ごめん、恵。お母さんたちにもそう伝えてくれ…。」私は、車内電話を切った。
冷たい雨が降り出していた。
結のお母さんに電話しなければならない。
私は、日本時間が朝になるの待って、道ノ瀬弁護士事務所に電話をした。
「申し訳ございません。ただいま、弁護士道ノ瀬はふたりとも公判中で外出しております。ご連絡先を教えていただければ、こちらからおかけ直しいたします。」
事務員らしき人がそう応対した。
「いえ、またご連絡します。東郷悟から連絡あったことだけお伝えください。」
それから数日、雨は降りつづいている。
雨が降り続き、陽が照らないので今日は冬のような寒さになった。
結のお母さんにはまた連絡したが、やはりまた公判中だった。至急と仰ったが、あちらからはかけて来なくなった。
結と連絡が取れ、結から、私たちのことを聞いたかもしれない。
そんな中、ブラオミュンヘンと、タカールの油田企業タビア・オイルとのスポンサー契約が締結された。
そして、日本にある父の会社、東郷製作所も倒産を免れた。
私は、死に体のようだったが、少なくともブラオミュンヘンと東郷製作所は息を吹き返した。
結と私の犠牲で、助かった人々が大勢いる、それだけはわずかな救いだった。
その日は試合がなく、晩秋を迎えたフライブルク郊外の家で、私は静かに過ごしていた。
ソファに座っている私の背もたれに、猫たちが座っている。
そして、猫たちが一斉に、後ろを振り返り窓の方を見た。
「誰か来たのか?」
「お客様でしょうか?」ジップも、雨粒が叩く窓から見て言った。
私が立ち上がり窓を見ると、一台の黒塗りの車が私の家の門の前に停まるのが見えた。
「…。」
車から一人の人物が降り、すぐに黒い傘を差した。
傘の下から、黒いスーツを着た脚が見える。
太ももから足首までさして太さの変わらないスレンダーな脚に、私は見え覚えがあった。
降り立った車はドイツ車ではない。日本車だ。
屋敷の前にある鉄柵の門には、インターフォンが付いている。
その時、インターフォンが鳴った。
ジップが出ようとしたのを止め、私が日本語で出た。
「はい。」
「監督でしょうか。日本大使館の五代です。」
またお前か〜。来たよ五代。傷心の東郷に塩を塗り込みに来た?
10月31日20:37の拍手様
>私も結君のことがすごーく心配です。
ありがとうございます。結は何をしているんでしょうか??
>国家の圧力に対抗するにはどうしたら良いんでしょう( ノД`)…。
これ↑私たちも実際被害を被っていることなので、私も悩むところであります。
お読みくださり感謝します。またいらしてくださいね。
10月26日19:58の拍手様 こちらこそ早速お読みください感謝します♥。先生じゃなくていいですよ。東郷や結のいる欧州では感染者激増で大変なことになっていますが、日本も時間の問題ですね。どうそご自愛の上、お過ごしくださいませ。また当サイトにいらしてください。
B L ♂ U N I O N
]]> ロミオとジュリエット 61 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=129 2020-09-25T09:56:00+09:00 2021-01-18T07:26:25Z 2020-09-25T00:56:00Z
登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結への、接近禁止令。
昨日、日本の裁判所から、書面でわざわざドイツの私の自宅に届いた。
日本にいる限り、この法が適用さ... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット
登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結への、接近禁止令。
昨日、日本の裁判所から、書面でわざわざドイツの私の自宅に届いた。
日本にいる限り、この法が適用されると。
かといって、結をドイツに呼び寄せることは出来ない。
法律上の家族でない結を、出国させドイツに迎え入れることは不可能だ。
家族ではない結が、ドイツに来るのは旅行者扱いになる。
今、日本はよほどの理由がない限り、出国は許されていない。
私の自宅のパソコンに、メールが届く電子音がした。
メールボックスを見た。
差出人、楠本裕介。
結のマネージャーだ。
東郷監督
「平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
バレエダンサー道ノ瀬結の件でメールをいたします。
この度、パリバレエ団取締役会において、以下の日本企業と資本業務提携を行うことを決議いたしましたので、お知らせいたします。
業務提携企業は、ラクス製薬、ペールチョコレート、会田生命保険…。」
結をCMに使う日本企業が、パリバレエ団と業務提携することになったとある。
パリは今、パンデミック第2波が来て、大変なことになっている。
ニュース記事で読んだ情報だが、パリバレエ団は、9月から再演予定だったが、第2波で舞台休業を余儀なくされている。チケットは全額払い戻されたと言う。
何億円分もの莫大な赤字が出ているのだろう。
結の演目・白鳥の湖の振付師をロシアから呼べなくなっているとも言っていた。
業務提携とはつまり、バレエ団買収に等しい。
パリバレエ団は、結のCM企業の言いなりになる。
と言うことは、結がその企業の意向に従わねばならないことを意味する。
結が、タカールW杯の広告を東京で撮影したと言っていた。
断れないとも言った。
楠本マネージャーの文章はまだ続く。
「道ノ瀬結が、請けておりますW杯の広告事業は、まぎれもなくタカール大会です。
かの地では、男女以外の恋愛を認めておりません。
以前、東郷監督が道ノ瀬との交際をSNSで公表されました。しかしその後、監督ご自身で取り下げられたと聞いています。
しかし、実際はおふたりは夫婦同然だと私は理解しています。これが露見すれば、タカール大会に協賛するすべてのスポンサーは撤退するでしょう。道ノ瀬は社会的に抹殺されるのです。パリバレエ団は、パンデミックで大赤字です。その上、道ノ瀬を失ったら、400年続いたバレエ団は潰れます。」
私は、自室のソファに脱力した。
天井を仰いだ。
結に近づくことは、日本の法律で禁止され、W杯開催地タカールは同性の結婚どころか、恋人であることすら認めない。
官僚の五代憲が私に言った。
「あなたは最終的に守りたいものがあるはずです。結さんを失いたくないでしょう。」
五代の言う意味はこうだ。
結を私のパートナーとして失うのではなく、このままでは、結の社会的地位を喪失させてしまう。
著名なバレエダンサーの結が…。
その可憐な演技で、世界を魅了した結が…。
タカールW杯には、莫大な経済利益が見込まれている。
ボトル飲料、食品、タクシー。街中は、W杯の商標入り広告であふれている。
パンデミックが終われば、経済効果は見込める。しかし、それはW杯に間に合う可能性は薄いと私は思う。
日本政府にしても、企業にしても、そこをどうするつもりなのだ?
いや、開催できなくても開催すると言って、皆をだまし続け、商品を売るだけ売ってしまうつもりなのだろう。
私の自宅の執務室の机上には、結のバレエ写真がフレームに入って飾られている。
私が以前、結の公演を見に行った時の、「ロミオとジュリエット」のロミオ役だ。
私はしばらく、それをうつろに見ていた。
結…。
私の結…。
その翌日、ブラオミュンヘンの国内試合が、行われた。
テレビ中継はあったが、観客は入れず、選手も私も声を上げずジェスチャーのみで、無言のまま試合が進んだ。
結果は、1−2でブラオミュンヘンが勝った。
試合後、いつもあるユニフォーム交換も肩を抱いて健闘をたたえ合うこともなく、相手チームと別れた。
試合を終え、監督控室に戻り私は、スマホに電源を入れる。
ONした途端、待っていたように電話が鳴った。
スマホの液晶には、馴染みのある名前が表示されていた。
通話ボタンをタッチする。
「東郷監督、お疲れ様。試合、良かったよ。終わったばかりで悪いが、私の執務室に寄ってくれないか。」
「シュタイナー会長。」ブラオミュンヘンの会長だ。
「いいね、必ず立ち寄ってくれ。」
「わかりました。」
今日は土曜で、夕方までの試合だった。今、午後6時を回った。
ドイツでは、午後4:30〜5:00には皆仕事を終える。
シュタイヤ―会長が、土曜日且つ、この時間まで執務室にいることは珍しい。
そして、試合後は選手はもとより監督の私もかなり疲労する。
通常ありえない、試合後の私を呼ぶことが、重要かつ早急な案件を予想させた。
小さく波立つような不安を抑えながら、私は、スタジアムから車を回し、ブラオミュンヘン事務所の会長執務室に向かった。
ブラオミュンヘンのロゴの入った、ビルの駐車場に車を停め、建物の中に急ぐ。
「会長、東郷です。」私は、ドアのをノックし中に入った。
「よく来てくれた。試合が終わったばかりなのに申し訳ない。楽にしてくれ。」
私はソファに促された。
「東郷監督、君に、今後のチームのことを相談したい。」
「何なりと。」
「君も承知の通り、パンデミック禍にありながら、サッカーで収益を上げていくのはなかなか困難なことだ。
観客をまだ入れることが出来ない。つまりチケットの収益が今春からゼロだ。
無観客試合でも、これまで例年の半分しか試合が出来ていない。
しかも、秋冬以降また試合が出来なくなる可能性がある。
今後3年間で、赤字が150億円が出るだろうと会計課から連絡があった。」
「150億円…ですか。」
「来年2021年末までは通常生活には戻れないと言うのが、世界の疫学者たちの見解だ。
試合は2022年春から開始されたとしても、すぐに観客が戻るかどうか。ブラオミュンヘンは海外からのファンも多い。航空会社各社の予想だと、2019年以前に戻るのは2024年だと言う。」
私も同様に予想していたので、シュタイナー会長の言葉には別段驚きはない。
ただ、黙して彼の言葉を聞いていた。
「監督、ブラオミュンヘンには資金提供先が必要になった。」
「倒産の危機があると言うことですか?」
「まだ持ちこたえている。でも、経営者として今、何らかの対策が必要なことは確かだ。」
「ごもっともです。」
「タカールの油田会社、タビア・オイルが我々に興味を示している。」
「タカール。次のW杯の国ですね。」
「そうだ。」
「タビア・オイルの社長がブラオミュンヘンのファンだ。このオイルマネーがあれば、我々は危機を免れる。
ブラオミュンヘンの幹部会で、タビアオイルとの業務提携を提案するつもりだ。君にも賛成してもらいたい。」
「会長のお望みであれば、私には是非もありません。」
「しかし、タカールは我々の価値観とは違う世界を生きている。
かの国では、LGBTは5年以上の懲役から終身刑が適用される。
東郷監督…、私が何を言おうとしているか分かるね。」
「会長…。」
「東郷監督、君は2部リーグだったブラオミュンヘンを1部に押し上げ、ドイツでも有数の強豪に育ててくれた。私は君にとても感謝している。
その君に、再びブラオミュンヘンを救って欲しい。
君の国の言葉で言うと、”アタマをサゲル?かい。助けて欲しいのだ。
ブラオミュンヘンは、今存亡の危機だ。タビア・オイルの資金力が我々には必要だ。その”障壁”を取り除いてほしい。」
「障壁?…」
シュタイヤー会長は、間を置き、重い口を開いた。
「パリバレエ団の、」
「…私の、パートナーのことですか…。」
「そうだ。」
「ミチノセ氏は、世界的な才能のある美しい若者だ。彼はW杯の日本のアンバサダーに就任したそうだね。彼もLBGTでは都合が悪いわけだ。」
「会長!」私は珍しく感情が先走りした。
「東郷監督、その大事な彼が刑務所にぶち込まれても良いのか。」
「刑務所?」
「ミチノセ氏はアンバサダーとして、時期が来ればタカールに渡航することになるだろう? タカールは気を付けた方が良い。LGBTの外国人2人が、タカールに旅行し、刑務所にぶち込まれたことがある。3年も経った今、まだ解放されていない。
問題行動を起こしたわけではない、ただ同性の夫婦だと言うことがホテルチェックインでバレたのだ。」
「東郷監督、言っておくが、くれぐれも君が監督を辞任することで解決するとは思わないで欲しい。」
シュタイナー会長は私の心中を読んだ。
「ブラオミュンヘンは、君が心血注いで育てチームだ。だが、チームにはチームの運営や沢山の選手やスタッフの生活がある。彼らを路頭に迷わせることだけはしないで欲しい。」
何と言うことだ…。
私が犠牲になるのはまだいい。
ブラオミュンヘンの選手や、結が犠牲になるのは耐えられない。
私はフライブルクの家に帰宅した。ジップも庭師ももうおらず、屋敷は暗かった。
猫がどこかにいるはずだが、出て来なかった。
私は、食事もせず、迷い続けた。ベッドに行かないまま、朝が来た。
翌日も、その翌日も、ただ、ブラオミュンヘン・トレーニング場と自宅を行き来しながら、迷っていた。
「東郷監督、次の週末の試合までに、回答が欲しい。」シュタイナー会長は私に最後通告して来た。
明日試合だと言う夜、結に電話をすることにした。
電話して、何をどう言うのだ?…。
今、夜中の12時。明日試合がある場合、私はこんな時間まで起きていない。
7時間の時差があるため、結が起きるであろう、日本の朝7時まで待った。
結に電話をかけた。
私は迷っているのに、結の電話はすぐに着信した。
「東郷さん!」結の弾む声がした。
「結、少し話がしたい。いいかい?」
「うん。東郷さん元気?猫も?」結の声はまだ甘い響きを含んでいた。
「ああ、結も変わりないかい?」
「うん、昨日ちょっと良いことがあったんだ。」
「何だい?」
「僕、オンラインで、バレエの魅力を紹介する番組のナビゲーターをしたんだ。僕の演目、『ロミオとジュリエット』のことをしゃべったよ。チャット形式で視聴者の皆さんがコメント書いてくれるんだ。日本からパリまで見に来てくれたファンが沢山いたんだ。今でも変わらず応援しています!って。すごくうれしかった。うれしくて、うれしくて…涙が出た。聞いてる東郷さん?」
「聞いているよ。良かったな、結。君は…やはり天性のバレエダンサーだ。何ものにも代えられない…。」
「もちろんだよ!」
結の嬉しそうな様子が目に浮かぶ。
結は、やはりバレエの世界で生きるべきだ。それしかない…。
私は、決断した。
「結、提案なんだが…、」
「何?どうしたの、東郷さん今日何だか変。何かあった?」
「結…、私たちは、別れなければならないかもしれない。」
「えっ?」
「このままだと、結も私も仕事と言うか、生きて行く上で支障が出る。」
「何?いきなり…。」
「ブラオミュンヘンが、タカールの企業から経済的支援を受けるかもしれない。」私は公開前の機密情報を結に漏らした。
「タカールはLGBT禁止の国だ。結もタカールW杯の広告の仕事をする。もう私たちは付き合うことが不可能かもしれない。」
「何言っているの、東郷さん!?正気?!」
「私たちふたりだけで生きて行けるなら、それは可能かもしれない。しかし、君の周りにも結のために沢山の人が働いているだろう。私の周囲にもまた。私たちは残念ながら、お互い身体一つで存在しているのではない。」
「東郷さん…。」
私はなるべく、優しく言った。
「結、君は若く輝かしい未来がある。パンデミック後には更に大きな名誉と名声を手にするだろう。いずれ…、私より素晴らしいパートナーも現れる。19歳も年上の私は、君にはやはり不釣り合いだった。」
「いやだっ!聞きたくない、もう聞きたくない!その言葉、今すぐ取り消して!嫌いっ東郷さん!大嫌い!僕が東郷さんがいなければ生きていけないのを知っているくせに!嫌いっ!」
「ごめん、結。君を愛していた。今でも。君の幸せを願っている…。」 私は、悲鳴のような結の声に耐えられなくなり、脱力して受話器を落とした。
あーあー東郷、言っちゃったよ。結はパニック…。拍手お礼絵も追加です。
10月7日02:45の拍手様 こちらこそお読みくださり感謝します。
>いろんなしがらみに揉みくちゃにされている2人に……なんとか!!幸せになって欲しいですね。
ありがとうございます。揉みくちゃぐちゃぐちゃになっている東郷と結をこれからもよろしくお願いします。www
9月29日12:32の拍手様 初コメントいただき嬉しいです。ありがとうございます。数あるサイトの中から見つけてくださって感謝します。
>とてもドラマチックだし、何より設定がおもしろいです。
そう仰っていただき光栄です。
>二人の恋が権力や社会的事情により困難に突き当たりますが、きっと応援してくれる人達も現れて、良い結末を迎えると信じてます。
ありがたいお言葉、ふたりに伝えます。泣。権力や政治に、翻弄されながら生きるふたりをこれからもよろしくお願いします。
ぜひまたおいでくださいね。
9月27日15:59の拍手様 いつもご贔屓にしてくださり感謝します。東郷も辛い決断しました。
>大人の東郷さんのお気持ち痛いぐらい分かりますが、辛いです。
ありがとうございます。東郷に伝えます。www
結がズタボロになっているので、私も心配です。
B L ♂ U N I O N
]]> ロミオとジュリエット 60 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=128 2020-08-18T11:14:00+09:00 2020-12-08T11:07:46Z 2020-08-18T02:14:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結に、7月には会えると言っておきながら、それが叶わなくなってしまった。
私は、ドイツに戻り、試合をこなした後、2022年の... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
結に、7月には会えると言っておきながら、それが叶わなくなってしまった。
私は、ドイツに戻り、試合をこなした後、2022年のW杯に向けてブラオミュンヘン幹部と話し合いのため、ドイツに残らねばならなくなった。
ブラオミュンヘン所属の選手に、ドイツ代表が多いからだ。
2022年のW杯開催は、不透明だと私は思っている。
出場国は、数々の予選を勝ち抜いて来なければならない。今年も開催されるはずの予選が出来ないでいる。
そんなこんなで、私はまだドイツから離れられない。
今、ドイツと日本は、よほどの理由がない限り、互いの渡航は不可能だ。
私は、ドイツに仕事と住まいがあり、入国できたが、同行できるのは家族のみだ。
私と結は互いに家族だと思ってはいるが、如何せん法的には他人だ。
結は、9月にパリオペラ座で舞台が開始されるかもしれないと言っていた。
結がフランスに戻ってしまったら、ドイツにいる私と会えば私たちはお互い2週間隔離される。
会う度、隔離だ。
毎週、舞台のある結と試合のある私が、そんなことが許されるわけもない。
結と電話で話すより、顔の見えるZOOMを使おうと、結をLINEで誘った。
ZOOMは、会議で使う映像と会話が出来るシステムだ。
LINEでOKの返事が来て、時差を合わせるため明日の夜と言うことになった。
ドイツ時間17時、日本時間24時。
24時と言う結の希望時間が遅いのが少し気になった。
結はそんなに宵っ張りではない。
24時少し前に、ZOOMに招待したが、なかなか結は出て来なかった。
「元気か、結。遅くまで何していたんだ?」
「うん…、ちょっとお仕事。」
結は、画面の向こうでアイボリーの壁の前にいた。
結の両親のいる家だろうか。
黒いシャツを着ている結は、肌がほの白く見え元気がなさそうだ。
「どうした、結?元気がないみたいだが。」
「そうだね、今日は撮影で疲れた。」
「撮影?」
「W杯のアンバサダー計画。政府のお抱え広告代理店で宣伝用の映像撮ったんだ。」
「え?」
パンデミックでW杯どころじゃない…、なんて言わないよな、政府や広告代理店は。
W杯は、チケット、放映権、観戦ツアー、スポンサーグッズなど巨額の利益が見込まれている。感染症なんか潰されてたまるかとでも思っているのだろう。
「広告代理店の偉い人がね、感染症パンデミックで大変な時期だからこそ、道ノ瀬くん、君の力が必要だって言ったんだ。W杯の優勝杯レプリカを持って、スタジアムに立つ君を撮りたい。デジタル広告を作りたいって。それを撮って来た。」
「アンバサダーになりたくないって君は言ったのだろう?それなにの無理やり連れだしたのか。」
「断れなかった…。僕が所属するパリバレエ団も、この件には賛成なんだ。半月もすれば、駅のデジタルサイネージやネット上に僕のこの広告が流れるよ。」
「東郷さん、指輪している?」結が別れ際に言った。
「しているよ。試合の時以外は。結は?」パリで買った、結と私の結婚指輪だ。
結が左手の薬指にはまった指輪を、こちらに見せている。
「僕も仕事の時は、外すから失くさないようにしなきゃ。」
結は指輪を少し眺めていたが、やがて顔を上げて言った。
「東郷さん、離れていても、毎日この指輪を僕だと思ってキスして。」
「わかった。」
「必ずだよ。」
「必ずするよ。」
互いに指輪に1回、画面に1回、おやすみのキスをして、ZOOMを切った。
帰国が許されるなら、2週間隔離されても良いから、結に会いたかった。
ドイツの自宅では、猫3匹がくっつくでもなく離れるでもなく、私にまとわりついてくる。
私が留守の時は、お手伝いのジップか庭師のパウルが猫に食事を与えてくれるので心配はない。
久々にドイツの家に帰宅した私に、猫たちは「あ、この人返って来たのか?」と言う顔をした。
猫なんてそんなものだ。
それでも、赤ん坊の時から私が面倒を見た黒猫のアルマーニが最初に私の所に寄って来た。
パンデミックの前は、結が来たり、ブラオミュンヘンの選手たちが来たり、私の家は来客で賑やかだった。
今は、この家もすっかり静かになった。
元旅籠なので、部屋数だけは沢山ある。
夜になれば、ジップと庭師のパウルは帰ってしまい、猫3匹と私だけだ。
郊外の木々に囲まれたこの家は、夜のしじまに静まり返っている。
結を、この家に迎え入れたい。
パリの結のアパルトマンでも、日本の家でも良い。
とにかく結と一緒に私もいたい。
私も、結と出逢うまで、この家でひとりでいても何ら寂しさを感じることはなかった。
ひとりの時間を楽しんでさえいた。
何の物音もしないこの家で。
しかし今はどうだ。
結が、私と出逢い、寂しさを知ったように、私もまた結がいないと…。
見上げた視線の先に、暖炉の上に黒猫のアルマーニがいた。
私に、何か言いかけて口を開けたが声を出さなかった。
忙しく半月が過ぎた。
フライブルクは、南ドイツで夏はかなり暑い日がある。
40度を超えることもある。
これをエアコンなしで過ごすのだから、日本とどちらがいいかと言えばどっちもどっちだ。
私の家は、郊外で少しだけ標高があるので少しはましだが、それにしてもこの日は暑かった。
そんな暑い日に、ジップが汗だくになって部屋を掃除してくれるから庭師と2人分、冷たいカフェオレを入れてやった。
牛乳を製氷皿で凍らせておいて、コーヒーに入れる。
次第に、牛乳氷が溶け出し、水の氷と違い、最後まで濃厚なアイスカフェオレが楽しめる。
猫たちの皿にも、ミルク氷を2個ずつ載せてやると、ペチャペチャとなめ始めた。
いない結の分も作り、グラスをカチッと鳴らして小さく乾杯して飲んだ。
その時、居間の電話が鳴った。
電話に近づくと見知らぬ番号の着信だった。
”はい、東郷です。”とドイツ語で出た。
返って来たのは、日本語だった。
「お久しぶりです、監督。在独日本大使館の五代憲です。」
「五代さん…。」聞きたくない声だ。
「今は、ドイツにお戻りですね。監督、ネットでご覧になりましたか?!道ノ瀬結氏のW杯宣伝用のデジタル映像、大好評ですよ。」
「いや、見ていません。」
「素晴らしい出来です。」
「五代さん、あなた方政府関係者は、このパンデミックの最中、2年後W杯を通常通り開催できると考えておいでなのですか?パンデミックは再来年で収まる保証はありませんよ。もし収まっていたとしてもいきなり出来るものではないのです。選手は3年も前から予選を勝ち抜かねばならないのです。」
「ええ、分かっています。でも、ほかに選択肢があると我々は考えていません。」
「巨額の利益が見込まれているのはわかりますが、経済ばかりを押して、感染防止を無視すれば、感染者は増える一方でしょう。それで開催できますか?世界中から選手や観客が押し寄せるのですよ。」
「感染対策は取ります。現に、W杯予選を行う際、選手たちは厳密に検査されているでしょう?
感染蔓延させないために、感染ルートが徹底的に洗い出されています。
ただ、ここに新たな問題があります。」
何をいまさら。
感染ルートの分からないのが7割超えていると聞く。ルート洗い出しなんて、蔓延してしまった以上、一部の効果でしかない。
しかし、五代はなおも続ける。
「問題とは、誰と接触したかということを明かす行為によりスキャンダルが露呈するリスクです。
道ノ瀬氏にスキャンダルでも出たりしたら、巨額のW杯利益が泡と消えてしまいます。」
「それは、道ノ瀬さんを利用しようとする、あなた方の都合でしょう。なぜ、道ノ瀬さんが、あなた方の勝手な利益の犠牲にならなければならないのですか?」
「今更遅いです。10社もスポンサーがついていることから分かるように、彼の価値を誰も放ってはおきません。企業も国も。
素直で、愛らしくて、世界的な影響力のある若者なんてそうそういません。
彼は、神に愛された若者なのです。」
「道ノ瀬氏が、人としての幸せを求めてはいけないとでも?私たちは一度は世間にパートナー関係であることを公表しています。」
「人の噂も75日です。もう忘れています。
それに、道ノ瀬氏のような清廉な人物にスキャンダルがあったら一般の人々は信じたくないと思うでしょう。」
「スキャンダルではありません。」
「政治家も、官僚も、スキャンダルだと考えています。メディアがそう報じれば一般国民にもそう思わせることが出来ます。」
「あなたが言うことは国家的犯罪に聞こえますが。」
「東郷監督、国家権力と言うものはそう思う人間を言論封殺することも出来るんです。メディアが善人だと報じれば善人、逆の場合も然り。日本のメディアは政府の方に向いてくれますから。
道ノ瀬氏がW杯のアンバサダーになって、集客すれば、パンデミックで活気のなくなった消費者心理を復活させることが出来ます。」
五代が嬉々として言った。
「ワクチンや薬が出来るかどうかもわからないのに、開催するのを前提に考えるのは早計だと思いますが。」
「そのワクチンですよ。それも老若男女知名度が高い道ノ瀬氏に宣伝してもらえば、開発費用も集まります。」
まだ、結を利用するつもりか?!
「東郷監督、あなたが道ノ瀬氏と関わってから、あなたの身辺は平和でしたか?。彼と関わり合いを続けていれば、この先、更にあなたの身辺が平穏でいられないことを覚悟すべきです。」
この男、とんでもないことを言っている…。
結と付き合ってから起きたこと…?
五代が、まるで催眠術でもかけるように、ゆっくりと一言一言、私に言葉を紡いでいく。
「東郷監督、悪いことは言いません。
ご自身の身の危険。お父上、お父上の会社、これ以上何も失いたくないでしょう?」
私の身の危険?私が試合後のインタビューで何者かに毒物を盛られたことか?
私の父の会社に政府から圧力が掛かり、顧客たちが取引停止し会社が立ち行かなくなった。
心労で父が亡くなった。営業利益が減り、社長が急死し、更にはパンデミックが起きた。
今や、父が築いた東郷製作所は倒産寸前だ。
そのすべての原因が、この私。
そのことを、私と結は、家族には話せず、話したら大切な家族の信用をも失う危険がある。
私と結が付き合ったがため、国家権力が妨害しているのは察知していたが、権力側である官僚の五代がそれを認めたのだ。
メディアに垂れ流せば、大変なスクープだ。
いや、五代が言うように日本のメディアにそれが出来る度胸はない。大きな権力を敵に回すことになる。
「東郷監督、これ以上国家権力と闘うのはやめなさい。あなたは最終的に守りたいものがあるでしょう。」
若くても権力側に立つ五代が、私に傲慢な物言いをする。
「”最終的に”、守りたいもの?」
「例えば…、結さんです。」
”道ノ瀬氏”としか呼んでいなかった五代憲が、結を下の名前で呼んだ。
「東郷監督、まもなくあなたには、”日本の裁判所から道ノ瀬さんへの接近禁止の処分命令”が下るでしょう。」
「なんだと…!?」
「道ノ瀬さんは、日本国の大事な要人です。試合で幾つもの国を行き来する感染の危険の高い東郷監督を近付けるわけにはいけません。」
毎日暑いですね。皆様お元気ですか。牛乳の氷でカフェオレ美味しいです。よろしかったらお試しください。私はすっかりリモートワークで通勤がない分、時間が取れると思ったら仕事が結構忙しいです。コロナだし暑いし、遊びにも行っていないのに。笑
2020年8月26日12:49の拍手様 東郷の大人の色気を堪能してくださり嬉しいです。文章もお褒めいただき感謝します。大人の男、東郷をこれからも楽しんで下さいね。これから二人がどうなるかお楽しみに。
2020年8月18日14:00の拍手様 ミルク氷のカフェ・オ・レ、ぜひお作りください。この季節ならではの楽しみです。いつもお読みくださり感謝しております。
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 59★ http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=126 2020-06-11T21:30:00+09:00 2020-11-01T01:03:01Z 2020-06-11T12:30:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「なんで、昨夜、しなかったの?」
「あ?…、手元が狂いそうになったよ。」結の言葉に、ひげを剃っている私は手を止め... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「なんで、昨夜、しなかったの?」
「あ?…、手元が狂いそうになったよ。」 結の言葉に、ひげを剃っている私は手を止めた。洗面所の鏡に結が映っている。
「一緒にいたのに。」ベッドの中で抱きしめて、それ以上進まなかったことが王子様は御不満らしい。
「今日、オンライン作戦会議なんだ。髭剃りは、今日したかったんだよ。」
「で、その、”する”のと何の関係があるの?」
「ひげが伸びていたら、結が痛いだろ?」
「ふーん。」結は、納得したかのようなそうでないような顔をして顔をそむけた。
内股のデリケートな所に当たったら痛いだろ、とまでは私は言わなかった。
それより、自粛自粛で欲情的な気分になれない。
「結は、剃らなくていいのか。」
「僕のは、産毛みたいなのだから、1週間にいっぺんでいいの。」
シェービングクリームを冷たい水で洗い流す。アフターシェーブローションを軽くたたき込み、手に余ったのを結のあごに塗ってやる。
「いいの、僕は。今日は剃っていないんだから。」からかわれたとでも思ったのか、結が首を振った。
私は部屋に戻り、今日の会議の準備を始めた。
パソコンを開いて、資料に目を通す。
結が、部屋の中でトレーニングを始めた。
柔らかい身体が、バレエ特有の動きを奏で始める。
結が左足だけで立つ。右足を曲げながら外側から右手で足先を掴む。
右足を頭より高く持ち上げて行く。両手で、背中から上げた直立に近い右足を頭の上で両手で掴んでいる。
凄い柔軟さだ、私は思った。10代の女性ならいざ知らず、20代の男性の結がすることに驚く。
次に左足もする。
左足を後ろから上げ、両手で掴んだところで、私に向けて、結はにっこり笑んだ。
全身を反らせる腰に負担がかかるポーズだ。
バレエダンサーとは言え、これを成人男性でするのは至難の業だろう。
正直、結の技に見惚れた。
まだまだ見ていたいが、私も会議が迫っている。
私は部屋着を脱いで、シャツを着てスーツを着た。
オンラインだが、一応スーツを着る。
「ごめん、結。作戦会議は機密情報なんだ。」
「部屋から出ていて、ってこと?」
オンラインとは言え、ブラオミュンヘンの作戦会議に監督である私以外が部屋にいるのはまずい。
「いいよ、試合見る僕も、作戦内容知らない方が楽しいから。作戦会議何時から?」
「日本時間の15時。ドイツ時間の午前8時だ。」
「あと、1時間30分だね。」
「リビング、キッチン、庭でも、どこででも好きなようにしていてくれ。」
「大丈夫、好きなようにしている。」
私は、パソコンの中の資料に気を取られ、「うん、」と空返事だけした。
「結?」
はっと気が付くと、椅子に掛ける私の黒のスラックスの腿の上に、チノパンとレギンスを履いた結の腿が載って来た。
足をからめて、私の片足を自分の方へ強引に引き寄せようとする。
「結?」
結の目が座っている。獲物を見るような目つきで私を見る。
「ごめん、結。今、君の相手をしてやれない。あと1時間30分で、会議だ。」
「1時間30分、あるでしょ?」
「まさか?」
「その、まさかだね。」
「だめ、だめだよ、そんな気になれない。」
「なれば?昨日しなかった罰。」
マジか。
結は求めると逃げるくせに、私にその気がないと妙に積極的になる。
私の膝の上に座り込み、パソコンと私を遮断している。
「これでは、仕事が出来ない。この資料読んでおかないといけないんだが。」
「痛っ。」結が、ゴリッと筋肉の張った腰を私の腿の上で力を入れて動かした。
「昨夜”しておけば”こんなことにならなかったんだよ。」
結が、せっかく着た私のシャツのボタンを外し始めた。
「結、たのむから。」
結をよけようとしたところが、結が私の首に腕を回して体重をかけて床に転がろうとする。
ふたり、もつれるようにして床に転がる。
「結っ?!痛くなかったか?体を打っていないか?」
世界的なバレエダンサーの結に怪我をさせたら大変だ。私はひやりとした。
「大丈夫。」
この状況に満足だとばかりに、結は、にっこりとした。
「仕方ない…。床では痛いだろう。」
私は結とともにベッドにもつれこんだ。
ベッドに押し倒し、結の唇を拾うように、柔らかく次には、強く口づける。
Tシャツをまくり上げ、中のしなやかな体に触れる。そのままシャツを脱がす。
乳首に唇で触れ、吸い上げると、
結が「あっんっ!」と声をあげた。
豊かに張った胸の筋肉を手のひらで包み込み、柔らかく、強く、揉みしだく。
結のへそにも舌を入れ、短いチノパンのジッパーを降ろす。 下着も一緒に取り去った。
結の上半身を起こしてやる。
「後ろに手をついて、膝を立ててごらん。」
「…、こっこう?」結は、何だろうと言う顔をしながら、言われたとおりにする。
「膝を開いて。」
「えっ?!だって明るいし、昼間だし。遮光カーテン閉めてよ。」
「いまさら何を言う。誘ったのは君だろ。私をその気にさせてくれ。」
「でっでも。」結は、黒のレギンスの腿のあたりをさする。
「会議が始まっちゃうよ。」
結が、困ったように下を向いて、足を少し開いた。
足首を開いたが、羞恥に膝がすぼまる。
私は、ベッドに腰を下ろし、結の膝頭に手を載せた。
そして掴んで、ぐいっと広げた。
「ああっ!」
前は見えたが、座っているので後ろは見えない。
「後ろもだ。」
私は、結の身体を起こし裏返す。
膝で立たせた。
結は、裸に黒のトレンカのレギンスのみを付けている。
「やれやれ、これは結の作戦か。」
「え?」
「向こうの鏡で、見てごらん。扇情的だよ、君は。」
突き出した腰はオールヌードで、尻の割れ目から大事な部分が見えそうだ。
私は、結の尻に両手をかけた。
「あっいやっ!」
蕾のあるあたりの両側に親指をかけ、ぐいっと広げる。
更に、少し上向かせる。
隠れていた小さな蕾が、剥き出されて目の前に現れた。
「いやああっ。」
「これから仕事なのに、まったく何てことしてくれる。」
後ろから、足の間に手を入れ、前を愛してやる。
先端から付け根にかけて、細身のものを繰り返し刺激してやる。
足を覆う、黒いレギンスと何も覆っていない白い肌が視覚的にそそられる。
もう一度、結の蕾ある両側の尻の肉を広げ、口をつぐんだつぼみを開かせにかかる。
舌で、蕾を潤してやる。
あごが結のデリケートな部分に触れたが、ひげを剃ったので、痛くはないだろう。
指の腹を濡れたくぼみに押し当て、襞を少しずつ伸ばすように広げていく。
蕾が開いて、ピンク色の中が少し見えるようになる。 バージンの頃と変わらない締まりの良さ、小ささを楽しむ。
数分かけ、中指1本を奥まで挿入する。
「ひっ…。」
前への愛撫で前立腺が膨らんだのを中に差し込んだ指で確かめ、愛撫してやる。
「あっあっあっあっ…。」
男性でも、前への刺激とは関係なく、意識が飛ぶほどの快感を延々と得ることが出来る。
愛撫を続けていると、結の中が私の指に合わせて形を変える。
この反応、本当に愛おしい、と思う。
たとえ身体のつながりがなくても私は結を愛す。
開かれるのを恥ずかしながら、恐れながら、それでも、心で体で懸命に応えようとしてくれる結は本当に愛おしい。
もう1本指を増やし、結の”中”の形を確かめて行く。
そこまで来て、スキンを持っていないことに気が付いた。
これから会議なので、スキンを使いたい。
「ど…、どうしたの?」ふいに指を抜かれた結が、息を弾ませながら言った。
「スキンがない。」
「そんなもの持っていたら、怒る。」
「え?」
「だって、東郷さんのお父さんのお葬式で僕が来ることを東郷さんは知らなかったでしょ。」
「まあ、そうだけど。」
「持っていたら、それ誰のため?」
「だから、持っていないよ。」
「当然だね!」結がふんっと言う顔をした。
致し方あるまい、指では届かない”深い所”まで愛すため、スラックスを緩めた。
「中への前戯が短めだから、痛いかもしれない。痛かったら言って。」
「え?うん…。」結はちょっと不安げな顔をした。
「私を欲しいと思っていて、足開いて、ここが固いと痛いから。怖くないから。」結の蕾に触れながら耳元に囁いた。
慣れてきたとは言え、結の小さな腔内に、私のものが貫通するのだ。
慎重にやらねば、傷つけてしまう。
結の、小さな襞口を巻き込んで痛くならないよう指で広げ、その頭にかぶせるように潜り込ませる。結が悲鳴のような声を短く上げた。
指とは違う、圧倒的な質量が入って来るのを結は、ベッドのヘッドボードを掴んで必死に耐えている。
「んんっ、あっ、あっ!」
「結、緊張すると狭くなるから、リラックスして…。」薄く引き延ばされている会陰や入口を指で撫でてやる。
「でっできな…い…。ああっ!」
前を掴んで愛撫を加えると少し緩んだ。すかさず後ろから、思い切って突きこんだ。
「ひっ、うっ!…。」
スピードを速めてを抽挿を繰り返し、結の中に入って行った。
結のレギンスの両足が私の腿を締め付け、更には”中”が私自身を締め上げて来る。
「うあっ!」
結の尻を掴んでもう一段階深く突きこんだ。
「うああああああああっ!」
1回深く挿入し、律動を繰り返し終えた。
昼間、しかも、仕事を後に控えてのSEXだったので、短めに、しかし濃厚に終えた。
頭がぼおっとする。
「結の奴っ。わざとやったな。」物分かりが良い様で、結は猫のように気まぐれな所がある。
会議が始まった。昨今の感染症被害の状況、この先の試合の見通しなどがドイツにいるブラオミュンヘン幹部から私に説明された。
その間も、先ほどの黒レギンスと白い肌がどうも脳裏にちらつく。
感染症ピークを過ぎたドイツは、ヨーロッパの国々の中で先頭切って、経済の再開を開始している。
独サッカー連邦リーグでは、無観客試合が6月1カ月間だけ開催される。
ブラオミュンヘンも6月末に2試合が組まれた。
私は、至急ドイツへ帰らねばならなくなった。
ヨーロッパの国々は経済を復活させるため、恐る恐る国境間の通行を緩和し始めた。
しかし、日本とヨーロッパの国々の間はまだ緩和されていない。日本からヨーロッパへ、またその逆も入国が禁止されている。
例外がある。
ドイツだと、医療関係者や、長期滞在許可証を持ちドイツ国内に住居を持つ者は入国が許可される。
私は、後者に該当する。
問題は結だ。
こうなったら、結を連れて行きたい。しかし…。
結は、7月まで舞台が休みで、そのあと夏季休暇に入る。
フランスは、ドイツより感染が深刻で、パリバレエ団の再開は、早くて9月だと言う。
「結、君は日本に残るかい?」会議が終わったあと、私は聞いた。
「え?いやだ、東郷さんと一緒に行く!」
「ドイツへ入れるのは、ドイツ国籍か長期滞在許可証を持つ者、その配偶者だ。」
「配偶者…。」
結の顔が途端に曇った。
結には、やはり”配偶者”と言う言葉が引っ掛かったようだ。
私たちは、事実上婚姻関係にあるのに、法律上誰も認めてくれない。
日本のパートナーシップ制度は、日本国に居住している必要がある。ドイツもフランスも同性婚は認めているが、少なくともどちらかがフランスかドイツの国籍をもっていなければならない。
「結がフランスに戻れても、私はフランスに入れない。結はドイツに入れない。このまま日本でご両親のもとで過ごすのも一案だ。」
「ヨーロッパでは会えない?ドイツとフランスは隣の県くらいの距離なのに。」
「フランスは今、海外からの入国者を2週間隔離している。君がフランスに戻ったら、2週間動けないよ。欧州では無理だ。」
「では、僕たちが逢えるのは日本でだけ?東郷さん、日本にいつ戻って来るの?いつ?」
「6月いっぱいで、今期(昨年9月〜今年6月)のサッカー試合が終わる。そうしたら、日本に帰国できる。飛行機が飛んでいればだが。」
結が私の腕を掴み、しがみつくようにした。
「せっかく毎日一緒にいられたのに…。」
「結。」
「毎日、夢のようだった。」
「結?いつか、私たちが、穏やかに暮らせる日が来るよ。」私は結の両肩を掴み、そして頬に触れた。
「でも、アンバサダー計画が…。」
「今政府は、感染症対策で2022年のW杯どころではなくなっている。経済効果のために、是が非でも開催したいだろうが、その頃までにパンデミックが収まっていないと無理だ。アンバサダー計画が政府の目論見通りいくかどうかわからない。」
「7月に、また会える。心配しないで待っていてくれ。」
「でも、またパンデミックが起きて再び飛行機が止まったら?」
「結、それでもいつかまた会える。」
「いやだ、せっかく毎日一緒にいられたのに。もう、離れ離れになるのはいやだ!」
結の口元が、急にゆがむ。
ぎゅっと握ったこぶしで目元を抑えた。
結は、まるで子供のような嘆き方をする。
なぜこんなにも、結が寂しがるのか。
パンデミックの不安が、芸術家の繊細な神経を逆なでするのだろうか。
「結、結は、私と出逢う前は、ひとり暮らしをずっとしていたんだろ?」
「うん。」
「フランスに渡った17歳の時から?」
「フランスに行ってから1年は、バレエ学校の校長先生の家でホームスティしていたんだ。だから、ひとりで住み始めたのは18歳から。でも、日本にいた時から公演であちこち行っていたので、働いている両親との時間は少なかったよ。」
結のご両親は立派な方だが、結は、どこか甘えたりない所がある。
子供の甘え欲求が満たされないと、大人になった時パートナーに愛情依存が強くなるのはよくある話だ。
「私は、6月の試合が終われば、また日本に帰国する。君をひとりにはしないよ。」
結の顔は晴れない。
「今までは、何でもなかったんだ。バレエに夢中だったし、必要なサポートはパリバレエ団や楠本さんがしてくれたし。」
「じゃあなぜ?」なぜ、そんなに不安がるのだ。
「…東郷さんに逢ったから。」
「え?」
「東郷さんは、僕の一部、僕は東郷さんの一部のような気がする。分身と言うか…。」
結が言うように、私も互いに一部のような気がする。
普通の夫婦の間柄のような絆があり、心のつながりがある。
しかし、日本の法律上では、私たちにとってかけがえのない絆ですらも、同性同士というだけで忌避するもの、無意味なものにされてしまう。
私は、結を抱き寄せた。髪を撫でた。
結は何か不安を感じ取っているのか、もう笑みを見せることはなかった。
その不安が、的中するとはこの時の私は思いもしなかった。
東郷のテレワークを邪魔する結ちゃんの巻。テレワーク、フーゴもしています。今日は拍手絵のどこかに上記の絵の濃厚なのがありますので、ご覧になって行ってください。秘密部屋も更新です。今日の秘密部屋、絶対表に出せないです。笑
8月14日02:38の拍手様 裏も表もお越しくださりありがとうございます。 そうそうご開帳。笑。仰る通り、若い結は情熱的で、東郷は大人の余裕があります。笑。今は、東郷と離れて寂しくしている結ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
6月25日13:14の拍手様 最近お読みくださったのですね。心より感謝申し上げます。イラストもお褒め下さりありがとうございます。また東郷と結に会いにいらしてくださいね。
6月14日22:09の拍手様 コメントサンキューです。結は受けですけど、男性的な所もありハンターだったりします。小型肉食系かも。東郷は攻でもゆったりした人なので大型の草食動物系?キリンとか。そもそもこのお話、結が東郷をナンパする所から始まりました。笑。またお越しくださいね。
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 58 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=125 2020-04-20T16:18:00+09:00 2020-05-05T11:33:26Z 2020-04-20T07:18:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私は、ドイツ政府や国内外の情報を集め、所属チームであるブラオミュンヘンと今後の相談をネットで日々取り交わしていた... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
私は、ドイツ政府や国内外の情報を集め、所属チームであるブラオミュンヘンと今後の相談をネットで日々取り交わしていた。
ドイツ政府は、サッカー始め大規模イベントは、8月31日まで禁止を決めた。
つまり試合は、早くても夏休暇後の9月からと言うことだ。
無観客試合は、禁止ではないので、ドイツサッカー連盟はこれを6月あたりに開催する可能性はある。
現在試合は禁止、選手たちはどうしているのか。
そして、コロナ陽性のアベルの具合が気にかかる。
私の秘書である小崎は、日本人なので飛行機が欠航になる3月29日直前に帰国していて、ドイツにいない。
ブラオミュンヘン事務所で聞いた所によると、アベルの容体は一進一退を繰り返しているそうだ。
他にも検査結果待ちの選手が複数いる。
私は、自分のチームの馴染んだ面々を思い浮かべた。
私の友人である、グルケ医師の勤めるフライブルク市立総合病院では進行の緩やかなガン患者の手術が延期され、感染症病棟を拡大していると言う。
玄関外では、テントを張り、地元医学部学生まで駆り出されて感染症外来をしていると言う。
病院だけではない、ライブなどに使われる多目的ホールに簡易ベッドが膨大な数並べられ、患者が担ぎこまれている写真を見た。
これが、私が知るあの美しいフライブルクか。
戦時下の野戦病院ではないか。
にわかに信じがたいが、全てが自分が良く知る建物や景色だった。
グルケ医師の専門は脳神経外科だが、この非常時だ。
感染症科の医師だけで足りるはずもなく、駆り出されているに違いない。
私は、ブラオミュンヘンのシュタイナー会長に電話をかけた。
「シュタイナー会長、この大事な時にブラオミュンヘンを離れていることになり申し訳ありません。」
「いや、御父上を亡くしたのだ、心よりお悔やみ申し上げます。
東郷監督、君が無事であることが何より嬉しい。君が感染する方が恐ろしいよ。」
「会長も、お元気で何よりです。」
「いいかね、こちらの状況が許すまで、ドイツに戻って来てはいけないよ。いいね。」
「はい。アベルが感染したと聞きました。」
「今、市立総合病院に入院している。意識が混濁して来ているそうだ。」
「えっ?」
「治療は、病院に任せるしかない。」
「はい…。」私に影響されて、日本語を学習しているアベルの人懐っこい顔が浮かんだ。
沈んだ私の声に、シュタイナー会長が気付いたのだろうか、会長が声のトーンを上げて言った。
「陰性の、ブラオミュンヘンの選手たちは皆元気だ。個々でトレーニングに励んでいる。ドイツでは3人以上集まることは禁止なので、1人か2人で、トレーニングをしている。心配はない。
それと、ドイツ連邦政府は、6兆円をスポーツ芸術産業に大規模支援すると言ってくれた。君の報酬も保障される。」
「ありがとうございます。ところで会長、私は感染症を扱う医療機関に寄付をしたいと考えています。」
「それは良い。東郷監督と会長の私、そしてブラオミュンヘンからも捻出しよう。」
「ありがとうございます。」
「君の、あのパートナーは日本で一緒か?」
「あ、はい。彼も、職場のオペラ座が休館になっています。」
「そうか。この感染症が終息したら、君たち2人と食事がしたい。」
「会長?」
「対面で食事を楽しむようになれるのは、一体いつのことだろうか。私は、それまで元気でいないといけないね。」
「会長?」父を失ったばかりの私は、シュタイナー会長の言葉が気にかかった。
「どこかお悪いのですか?」
「いや、大丈夫だ。」
「そうですか、ずっとお元気でいらしてください。」
「了解。」
故・東郷信司郎が生みの父なら、シュタイナー会長は私・東郷監督の生みの父だ。
私は、この人無くして、著名な監督にはなれなかった。
シュタイナー会長は、お嬢さんのローラさんと私の婚姻を望んでいた。
だから、バレエダンサー道ノ瀬結と私の恋を、まっこうから否定された。
そのシュタイナー会長が、結の存在を認めてくれた。
会長令嬢のローラさんは、別の男性と結婚し、すでに一児を得たと聞いた。
孫が出来て、会長も心に余裕が出来たのかもしれない。
ブラオミュンヘンの選手たち、会長、スタッフは、非常時を必死に乗り切ろうとしている。
私は、遠い日本にいて祈るような気持ちで、彼らを見守っている。
そして私は、ドイツの自宅の管理を頼むため、ジップと庭師に電話をかけねばならない。
ジップの携帯に電話をすると、彼女がすぐ出た。
「だんな様!」
「ジップ!変わりないかい?」
「はい。お屋敷の方は、何事もありません。私も庭師も猫たちも元気です。」
「そうか、ありがとう。感謝している。」
「でも、都市部の店が閉まってこっそり遊びに来てしまう人が沢山います。門の前に”当然ですが見学禁止です”と書いた看板を立てました。」
「笑。そうか。人が多いなら、くれぐれも気を付けて。」
私の住むフライブルク郊外は、リゾート地で、近隣のスイス、フランス、イタリアからも観光客が来る。
外出禁止の余波で、こっそり遊びに来る輩がいるらしい。
私の家は、木造5階建て、歴史的建造物だから目立つ。
当然、東郷監督の家だとバレているのである。
「ジップ、君たちの仕事は、猫の世話だけでいい。給与は変わらず振り込むから。庭師にも伝えてくれ。」
「はい。ありがとうございます。だんな様がお帰りになったら、また朝食をお作りします。」
「頼むよ。猫に邪魔されながら食べるのが楽しみだ。」
ジップの作ってくれる、ドイツ風の朝食が懐かしくなった。
プレッツェル、コーヒー、チーズ、庭で取れたレタスサラダ、4分の半熟卵…。
ブラオミュンヘンの選手たちは、制限された生活の中でトレーニングを励んでいると聞いた。
問題はこの私だ。
実家には、トレーニングマシーンは無いし、日本のサッカーチームの所属ではないので、私が使えるスポーツ施設はない。
市中の公園を変装してランニングでもするか。
結と並んで走ったら、さすがにばれて、人が集まって来そうだ。
結はどうするのだろう?
あのスタイルを維持するのは、並大抵のことではない。
「東郷さん、見て見て、これ僕!」
結が、iphoneを持って、私のそばにやって来た。
画面をのぞき込むと、バレエの演目が映し出されていた。
「ネット経由で、今まで公演された演目を世界中に流しているんだよ。ネット鑑賞会だね。」
「これが、ロミオとジュリエットのロミオ役。東郷さんも見に来てくれたでしょ。待って、白鳥の湖の王子役もあるんだ。」
「おっ、結がリフトしている。」
「小柄な人限定だけどね。僕が逞しいタイプじゃないから。」
「結は、バレエ、いつまで休みなんだ?」
「パリバレエ団からの連絡だと、7月末まで公演中止でその後夏休みだから、9月から再開できればって言っている。」
「ブンデス(ドイツサッカー連盟)と同じだな。」
「マネジャーの楠本さんに頼んで、フランスの医療機関に10万ユーロ寄付することにしたよ。」
「太っ腹だね。」
「芸術家の僕は、仏政府に手厚く保護されているから、お返しなんだ。」
「結、君の素敵なスタイルを9月まで維持するのはどうするんだい?」
「う〜ん、日本のバレエ協会のレッスンルームを借りるか…でも日本にもダンサーは沢山いるので、人が集まらないようにしたら、1カ月に1回くらいしか借りられない。
あとは、自宅かな。ここで、トレーニングしても良いの?」
「いいよ。防音室なので、飛んだり跳ねたりしても大丈夫だ。このぐらいの広さで良いのかい?」
私は、すっかり私と結の部屋になっている実家の防音室を見回した。
音楽家になった妹の飛鳥用に作られた部屋だが、肝心のピアノをここに置くわけにいかなくなった。
昔、私たちきょうだいが、1階のリビングで野球をやった。
上の妹の恵が、バッド代わりのゴルフクラブで壁に大穴を開けたからだ。ピアノは穴隠しに1階に設置された。
「基礎トレーニングは、このぐらいで十分。ジャンプはバレエ協会に行ってやるよ。」
結が、さっそく簡単なトレーニングを始めた。
「東郷さんはどうするの?」
私はちょっと面白いことを考えた。
「結をウェイト(おもり)にして、私がトレーニングするのはどうだ?」
「ふたりでトレーニングする?」結が嬉しそうだ。
「リフトのやり方教えて、結。」
「えー!東郷さんを持ち上げられるわけないでしょー!」
「結が持ち上げるんじゃなくて、私がリフトするんだ。」
「あ、びっくりした。でも天井にぶつかる。」
「下においで。玄関ホールが吹き抜けだから、2階まで天井の高さがある。」
「やるやる。」
結のバレエレッスンが、1階の玄関ホールで始まった。
「重心を預けるからね、東郷さん。これからは、東郷さんをバレエのバーだと思うからね。」
「え?バー(棒)」
結が、ジャンプのタイミングを合わせ、私の腕めがけて一気に飛び込んで来た。ちょっと驚いたが、ポンと案外うまく私の腕の上に載る。
「きゃはははは〜!東郷さん、さすが〜。運動神経が抜群だし、力も強いね。」
「でも、リフトで一番大事なのは信頼関係!」
「信頼関係?」
「そう、信用して体を預けられること!」結は、伸ばした私の腕の上で、楽しそうに次々とポーズをとってみせた。
2階の天井からつるした、シャンデリアに結の手が届きそうだ。
腰ではなく、肩甲骨の下で大きく曲げる。
結は男性だが、体が驚異的に柔らかく、非常にしなやかだ。
全身を覆う、細く強い筋肉が優雅さの源だ。
「あっーなんか今、きゃっきゃって聞こえたぞー。あ、すごいリフト!」
パン屋業務の途中で何か取りに来たのか、妹の恵が私たちに言った。
「お兄ちゃん、バレエに職替えするの?」
「するわけないだろ。」
結のバレエの練習に付き合い、私も結の横で腕立て伏せ(プッシュアップ)
で胸筋や背筋、腹筋、腕の筋肉、体幹鍛えた。続いて、シットアップ(上体起こし)で腹直筋を鍛えた。
「すごい筋肉だね。割れてる。」結が、シットアップで腹筋を鍛える私の腹に手で触れた。
「結も割れているだろ。」
「東郷さんほどじゃない。東郷さん、僕を背中に乗せて腕立て伏せとかできるんじゃないの?」
「しないよ、背骨骨折したんだから。」
「あ、そうだったね。ごめーん。」
その夜、私は、ドイツに残して来た皆のことを思い、寝付けなかった。
「眠れないの?」
「結もか?」
「不謹慎なんだけれど、みんなに囲まれて、東郷さんと暮らせる今が僕は幸せ。お金が沢山あるとかじゃなく、東郷さんとの時間が沢山あるのが一番うれしいんだ。今それが、初めて叶っている。
辛い人が沢山いるのに、それが申し訳なくて…。」
「結、結…。」
私は、隣りで寝ている結を自分の布団に招き入れ、抱きしめた。
なんて、心の綺麗な天使…。
すみません、秘密部屋は工事中です。phpと言う、サイト契約サーバー上のシステムが変わったら動かなくなりました。あーあーどうしてくれるのですかぁー。すみません、皆さま。→直りました。ご面倒をおかけしました。下にスクロールした所に入口作成しました。
読者皆さまにはいろいろお気遣いのコメント、メールいただき感謝しております。このお話を書きだしたのも、BLを単なる娯楽でなく、政治社会問題を触れて行きたかったのがあります。BL好きは、知的で真面目な方が多いです。私は、政治のことあれこれ書いているサイトがあるのですがアベ以外なら犬か猫の方がましと考えています。
B L ♂ U N I O N
]]>ロミオとジュリエット 57 http://fugo1555.kenshingen.fem.jp/?eid=124 2020-04-18T17:08:00+09:00 2020-11-01T01:04:04Z 2020-04-18T08:08:00Z 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「初めまして、結の父母の道ノ瀬です。」
その日の夜に、結の両親が私の実家に来てくれた。
仕事帰りなので、おふたり... フーゴ <div align="left"><font size="4"><span id="blink0095"><font color="#c20000">新!</font><font color="#000000"></font></span><script>with(blink0095)id='',style.opacity=1,setInterval(function(){style.opacity^=1},500)</script></font>ロミオとジュリエット 登場人物プロフィールはこちら 主人公東郷の邸宅
「初めまして、結の父母の道ノ瀬です。」
その日の夜に、結の両親が私の実家に来てくれた。
仕事帰りなので、おふたりともスーツ姿だ。結のお父さんは黒スーツにダークレッドのネクタイ、お母さんはグレーのスーツだ。
結のお母さんは、玄関で出迎えた私の母の手を握って言った。
「お母さま、初めてお会いした気がいたしません。監督と息子を通して、東郷家の皆さまと繋がっていたと思います。
これからは私たちが皆さまのお役に立ちます。」
母は、結のお母さんの襟で光っている、ひまわりの中に天秤を模した”弁護士バッジ”を一目見やり、言った。
「もったいないお言葉です。道ノ瀬さん…。」
「片付けもしていませんが、お上がりいただけますか。」母が申し訳なさそうに言った。
捜索で散々荒らされた部屋に、結のご両親にお入りいただくのは申し訳ないが、そうするしかない。
「どうぞ、お気になさらずにお願いいたします。私共は慣れていますから。」と結のお母さん。
「これは…。」結のお父さんが、棚の上の白い箱に目を止めた。
「亡き夫です…。さすがに骨壺は持って行かなかったですね。」母が言った。
結のお父さんが、乱暴な捜査でずれていたのか骨箱の位置を丁寧に直してくれた。そして、ご夫妻で合掌ししばらく動かなかった。
「パン屋さん業務の所持品も沢山持って行かれたようですね。」
結のお父さんが、自宅エリアから見えるドア向こうのパン店スペースを見た。
「はい。オーブン、発酵機も、レジスターもです。」
「東郷製作所様の顧問弁護士には、ご連絡を取られましたか?」結のお父さんが言った。
「会社には、家宅捜索を受けたことを伝えました。夫の会社は大企業ではないので、顧問弁護士と言うより、相談する弁護士がいる程度です。
会社も家宅捜索を受けていて、会社のことで手いっぱいです。私が私的に経営するパン屋のことまでは、とても、とても・・・。」
「東郷製作所様の件は、その弁護士の方の仕事ですので、タッチできませんが、パン屋さんの押収品は何とかしましょう。不服申し立てをご希望だと存じますが、裁判が終わってから返却では遅すぎるでしょう?」
「はい!」
「押収されたものは、”必要”がなくなれば持ち主に、”還付”されます。つまり、返却されなければならないと法律で定められています。」
「お父さん!僕たち財布も携帯もを持って行かれたんだよ!」結が言った。
「即刻、還付請求を出します。応じない場合は、押収品を返さない処分が不当だと、準抗告を裁判所に行います。不服の申立てです。」
「ありがとうございます!道ノ瀬さん、ご恩は忘れません。」母や妹が言った。
「言葉に尽くしきれないほど、感謝しています。」私も言った。
「これが、私たちの仕事です。」
お父さんが言うと、結が誇らしげに見た。
結のお父さんは、グレーヘアだが、覇気に満ちていて血色のいい顔が若々しい。
自由と正義の理念に裏打ちされた御人格が伺える。
その夜は、結の両親が私の実家で食事をして行った。
「財布は持って行かれたけれども、パン屋で食品を扱うので、食材だけはありますのよ。」母が笑った。
「まあ、お父さん良かったわね。うちは事務所での勤務時間が長いので食事はいつも簡単なんです。」結のお母さんも笑った。
ワイン、生ハムと有機野菜のマリネ、ステーキ、マヨネーズの代わりにチーズとヨーグルトを使うモロッコ風のポテトサラダ、ごはん、セリの味噌汁、苺のアイスクリーム添えが並んだ。
妹の恵が、結の両親にワインを注ぎながら言った。
「でもなんで、家宅捜索なんかされなきゃいけないのですか。お父さんそんな悪いことしたと思えないんですけど。どうなんですか?道ノ瀬先生。」
「東郷製作所様の家宅捜索については、私共は情報も資料も知り得ていないので、申し上げようがございません。すみません。参上したのにこれはお力になれなくて。」
「道ノ瀬さん、謝らないでください。謝っていただくなど申し訳なさすぎます。」私は箸をおいた。
「でも、監督。私共はこちらへ本日遊びに来たのではありません。弁護士として何かお役に立てることはないかと。」
そんなことを、結のお母さんに言わせてしまい、私は、もう食事が喉を通らなかった。
2022年W杯のアンバサダーに就任予定の結に私が手を付けたこと、政府はその抹消に躍起になっている。
LGBTが禁止・有罪になる国があるのに、アンバサダーがLGBTなど絶対に認められないのだ。
噂ではなく、男までいる、権力者にとって全く許されるものではない。国益に反すると言うものだ。
父が心労死して、会社が家宅捜索されたのも、すべてはそれが原因だ。
”結から手を引け”、さもなくば東郷悟、お前を社会的に抹殺するぞ!と国家権力が言っているのである。
すべてを話そう、話せばなるまい。
私は、試合で相手に作戦を読まれないため、いちいち表情に出すことはしない。しかし、今、こめかみに冷たい汗がにじんだ。
私は、結を見た。
「この場で、道ノ瀬さんとうちの家族にお話することがあります。」
「東郷さん…。」結は私の決意を察知したのだろう。
「えっ何の話?」恵が言った。
皆が、私に注目している。
その時、結が言った。
「僕、東郷さんの作ったのどれだかわかるよ、ステーキとこのポテトサラダでしょ。」
「当たり、結さん、見ていなかったのに。すごい!」一緒に調理していた私の母が言った。
結が、また私を見た。
結が目を私に合わせ少し細めた。そして、かすかに顔を横に振らしたように見えた。
”言うな”、か…。
結のご両親が還付請求してくださったので、パン屋の道具は2日で返って来た。
私と結、母と妹たちの携帯と、財布も。異例の速さだろう。
道ノ瀬弁護士の連名の請求に、押収品をあっけなく返してよこした。
結のご両親は不審に思ったたはずである。
でも、結のご両親は一言も尋ねなかった。東郷製作所と私の父、故東郷新司郎社長が、なぜ、家宅捜索されたか?である。
でも、聞かなかった。
弁護士と言う職務上、東郷製作所か、私や私の家族のプライバシーに関することを考え、あえて避けてくれたのかもしれない。
結も、私が真実を話すのを止めた。
LGBTカップルで、奇跡的に双方の両親と上手く行っているのを壊すことは忍びない、結はそう考えて私を止めたのだ。
19歳も下の結に、私は教えられた。
真実でも、言う時を選ばなければならないのは確かだ。
結と結のご両親には感服する。
才知にあふれ、常に他人を思いやり、職務を全うしようとされる。
分野は違うが、なんと尊敬すべき人たちであることか。
私は、道ノ瀬家の人たちと”縁(えにし)”を結んだことを誇りに思う。
パン屋は、結の両親のおかげで再開出来、私と結は、3週間もらった喪中休暇を終え欧州に帰ることになった。
しかし、更なる大問題が起きていた。
冬から流行り出した疫病コロナウィルスが、私たちの周囲に急速に影響が及び始めたのである。
アジア、欧米で患者が激増し、東京五輪延期が決定した。
結と私が予約していた飛行機が欠航になった。
検察が押収して行ったスマホの中に入っていた電子チケットだ。
しかも、私が、勝手にドイツへ帰らないように法規的措置でキャンセルしてあった。
新たに、航空券を買おうにも、回線が込み合っていてパソコンがつながらない。
「こっちもだめだ。」結がiphone片手につぶやいた。
欧州行きの海外航空会社の飛行機が、みるみるうちに運航停止になって行った。
その時、ブラオミュンヘン事務所から私の携帯に電話が来た。
「監督!」
「所属メンバーに検査結果が陽性の選手?」
「アベル選手です。ほかにも検査結果待ちの選手が複数います。グルケ先生の病院も、今は感染症患者であふれていますよ!」
私は、その衝撃に、自分の心臓が不規則に波打つのを感じた。
再びドイツ・ブラオミュンヘンから、かかって来た電話では、接触の多いサッカーは、ゲーム不可能と即座に判断され、試合自体が皆無になったとのことだった。
私が所属するドイツ、周辺国のイタリア、フランス、イギリス、ベルギー、ブラジル、サッカー強豪国のみならず、人類すべてが感染症でやられている。
結はどうだ。
日曜日の今朝、母親の軽バンで送ってもらい、両親のいる実家へ行った結が、戻って来て即座に口を開いた。
「パリオペラ座も感染予防防止のため、閉館になったって。バレエ公演再開は見通し立たないと…。」
「閉館どころか、市中に人がいないんだ。
生活必需品を買うにも、政府発行の許可証が必要で、違反者には高額の罰金が科せられているよ。」
「そのようだな。」
「東京の両親も、事務所へ通勤せず、家で仕事するって。」
「どうする、東郷さん?」
パソコンには、CNNや、BBCなどの欧米のニュースサイトが映り出されている。
重症者、死者多数を出す惨状がどんどん流れて来る。
「しばらく、日本にいるしかない。動くと危ない。致死率の高い感染症だ、命に係わる。」
結は、恐怖に張り付いたような顔をした。
結が眉間にしわを寄せ、ソファに掛けた私に腕を回して来た。
結を、ゆっくりと抱きしめる。
結が不安げに私を見上げた。
私になおもすりつこうと身を寄せて来る。
「僕は、どこまでも東郷さんと一緒だから。離れたくない。」
髪を撫で、頬に触れてやり、額に、唇にそっとキスをした。
「こう言うキスも危ないと言うことか…。」
「え?」
コロナ、大変な状況ですが皆さまご無事ですか。本当にお気を付けください。私は東京にいるので、感染激増を身近に感じます。未対策で1人いたら50日後に5414人になるそうです。私は元来政治問題に非常に関心が強いので、免疫学やコロナ政策を注視しています。皆さまお体にお気をつけて、お互い必ず生き残りましょう。
4月19日05:31の拍手様 こちらこそ、お読みいただき感謝申し上げます。先生でなく、フーゴで良いんですよ。笑。お体にお気をつけて、東郷と結によろしくお付き合いくださいね。
更新楽しみ、との事でしたので、調子に乗ってもう1本書きました。お読みください。
4月18日22:23の拍手様 式をお休み、それが良いと思います。お気持ち的にはお出になりたいでしょうが、安全のためですものね。コロナ、1年では終わらないでしょう。私は来年の五輪も無理だと思います。もしも奇跡的に1年後ワクチンが出来たとして、まず医療関係者に摂取ですよね。次に体の弱い人とか。観光客全員に摂取して五輪ん開催って、夢のまた夢です。どうぞ、お体にお気をつけてお過ごしください。また遊びにいらしてくださいね。
B L ♂ U N I O N
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